一年ぶりの更新となるシリーズ。
天邪鬼的にSPYDではない配当ETFを探すの第三弾は、最近、SBI証券、楽天証券、マネックス証券といった証券会社で取引ができるようになった、JPMorgan Equity Premium Income ETF (JEPI) です。
配当ETFで、その配当利回りは約7%で、配当金も毎月支払われます。
「そんな夢みたいなETFがあれば、これ一本だけ買えばよいじゃないか」と思う人もいるでしょう。
しかし、考えてみてください。
S&P500に選ばれている銘柄の中でも、高配当の銘柄を選んでETFにした、SPYDでも4～5%です。
一体どうすれば、7%もの配当利回りを叩き出して、毎月の配当金を支払うことができるのでしょうか。そこには実現のための手段があります。
その特徴を見ていきます。
【注意】本銘柄は個人の意見として記載しているのみで、推奨されるものではありません。ETFの商品内容を確認した上で、ご自身の責任で投資判断を下してください。
VOICEROID動画解説
JPMorgan Equity Premium Income ETF (JEPI) をコンパクトに説明する動画もありますので、記事と合わせてご覧ください。また動画の内容は作成時のものとなりますので、ご了承ください。
どのようなETFなのか？
JEPI基礎情報
まずは、ETFの基本的な情報を確認してみましょう。
| JEPI | |
|---|---|
| 運用会社 | J.P. Morgan Asset Management |
| 設定日 | 2020年5月20日 |
| 取引所 | NYSE Arca |
| 経費率 | 0.35% |
余談ですが、J.P. Morgan Asset Management は、JPMorgan Chase & Co. のブランドで、J.P. Morgan Asset Management の名前の下でJEPIは運用されています。
設定日は2023年5月なので、ようやく三年と若いETFとなります。
経費率は、0.07%のSPYDよりは高いものの、0.39%のDVYをやや下回る水準。ちなみに、「この種」のETFとしてみると低い経費率となります。
「この種」のETF～カバードコール
高い配当利回り、低い経費率、毎月の配当金。
JEPIが日本で買えるようになる前は、QYLDというETFが選択肢となっていました。QYLDはもう少し利回りが高いものの、経費率も0.6%と高いものです。
米国では、QYLDだけではなく、NUSIというETFもあります。
さて、JEPI、QYLD、NUSIの共通点とは何でしょうか。
それは、運用にカバードコールというオプション取引を活用していることです。
以下で「カバードコール」「オプション取引」について簡単に見ていきます。
予備知識：オプション取引とカバードコール
JEPIを知るには、カバードコールから逃れることは出来ません。そして、カバードコールを知るにはオプション取引は知っておきたいです。
オプション取引
オプション取引とは
オプション取引は様々な情報を見つけられるので、ご自身で理解し易い情報を探してもらえればと思います。私は、大和証券の用語説明がしっくり来ていて、本記事の説明では、それを参考にしています。
オプション取引とは、大和証券の説明を一部引用すると以下の通りです。
特定の原資産について、一定の期日（期間内）に、あらかじめ決められた数量を、あらかじめ決められた価格で、受け渡しする「権利」を「売買」する取引。
大和証券-金融・証券用語解説集
オプション取引の4つの立場
この説明だけでは分かりにくいと思います。実は、権利の売買には以下の4つの立場があります。
- 買う権利（コール）の買い
- 買う権利（コール）の売り
- 売る権利（プット）の買い
- 売る権利（プット）の売り
この4つの立場を図表に示したものを下記に掲載します。
例：どんな取引をするのか
具体的に取引を見てみましょう。
- Aさんが、とある期日にXYZ社株を100ドルで購入できる権利を5ドルで買う。
- 期日が来たXYZ社株が110ドルになっていたら、Aさんは買った権利を行使できる。
- 逆に90ドルになってしまった場合は、100ドルで買うと損をしてしまうので、その権利を放棄可能。
- 100ドルで購入できる権利を売ったBさんは、Aさんが権利を行使したら、XYZ社株を必ず売らないといけない。
Aさんは、支払った権利購入費用を考慮しても、市場価格よりも安く株式を購入できているのに対し、Bさんは、現物取引であれば得られたであろう売却益は逃します。その代わり、プレミアムと言うオプション料を受け取ります。
オプション取引の活用場面は複数ありますが、例えば、株価があまり大きく動かない場面で利益を確保したい時に活用することができます。
カバードコール
カバードコールは、オプション取引を使った投資手法で、原資産を持ちながら、持っている原資産のコールオプションの売りを行うことを言います。上記の図では、左下の立場となります。
上図の左上の立場にある「買い」の人がコールオプションの買いを行使すると、カバードコールで売りをしている人はプレミアムと言うオプション料を受け取って、同時に手持ちの原資産を売る義務が発生します。
通常の株式取引での売却と異なり、あらかじめ約束した価格での売却をする必要があること、それは必ずしも市場価格よりも高いとは限らないこと、その代わりにプレミアムが収入となることが、この取引の性質となります。
JEPI構成銘柄
JEPIは、値動きの目安としてS&P500をベンチマークにしていますが、500銘柄を組み入れている訳ではありません。加えて、本ETFはアクティブETFであるため、ファンドマネージャーが銘柄を選定し、必ずしもS&P500銘柄から選ぶわけでもありません。
2023年6月2日時点で、134銘柄を組み入れています。
上位銘柄
JEPIの上位構成銘柄を見てみます。
| 銘柄 | ティッカー | 割合（％） |
|---|---|---|
| MICROSOFT CORP | MSFT | 1.69% |
| AMAZON.COM INC | AMZN | 1.65% |
| ADOBE INC | ADBE | 1.63% |
| THE HERSHEY CO | HSY | 1.56% |
| ACCENTURE PLC | ACN | 1.50% |
| MASTERCARD INC | MA | 1.50% |
| ALPHABET INC | GOOGL | 1.47% |
| PEPSICO INC | PEP | 1.47% |
| THE PROGRESSIVE CORP | PGR | 1.45% |
| VISA INC | V | 1.43% |
上位には聞いたことのある会社が多く並びます。
J.P. Morgan Asset Managementのサイトで全組入銘柄の情報を見ると、下位に「SPX_数字」という記号が・・・株式銘柄ではなく、記号。種別には「Equity Linked Notes」と書かれています。
これが上述のカバードコールとつながってきます。
Equity Linked Notes
Equity Linked Notes（以降、ELN）は、オプション取引などの金融派生商品を組入れた債権である仕組債と呼ばれるものの一種です。JEPIが組み入れているELNは株式取引のカバードコールを含めたものとなります。
なお、JEPIに含まれているELNは2022年6月2日時点で約13%あります。目論見書にはELNの組入上限を20%と定めています。
ENLを組入れているJEPIの特徴
このELNを組み入れると何が起きるのか。大きく以下の二つがあると言えます。
- 毎月の配当原資になる
- 値動きが控えめになる
毎月の配当原資になる
現物の株式からの配当支払いでは毎月とはなりません。では、どうやって毎月支払っているのか。
ELNの期限を見ると－私の読み方が正しければ－期限が毎週やってきます。高頻度でELNの取引を行うことでプレミアムを受け取り、配当金の原資にしています。
実際に配当は以下の様に支払われています。50セントを超えることもありますが、概ね30～50セントの幅で支払いが行われています。
値動きが控えめになる
目論見書では、ELNによる損失を限定的にする旨と、その副産物として含み益も限定的になる旨が書かれています。
Investing in ELNs may reduce the Fund’s volatility because the income from the ELNs would reduce potential losses incurred by the Fund’s equity portfolio. However, because of the call options written within an ELN, the investment would also reduce the Fund’s ability to fully profit from potential increases in the value of its equity portfolio.
J.P. Morgan Asset Management
株価を実際に見ると、ベンチマークのS&P500と比較すると大人しくなっています。株価上昇による譲渡益を狙うETF出ないことが分かります。
JEPI株価
JEPIの株価は、2023年6月2日終値で54.37ドルです。
設定来、株価は2021年後半から2022年前半にかけての60ドル超えをピークに50ドル台前半にまで下落した、山なりのカーブを描いています。
JEPIを購入する人物像とは
最後に、このJEPIを購入するのはどういう人なのかを考えてみます。
値動きが大人しいので、大きな損を出しにくいと推測できます。一方で、ELNを組入れていることで上昇も限定的です。そして、JEPIの特色は毎月の配当金支払い。
これらの特徴からJEPIを買うのは、
- 若いころから投資をしてこなかった
- そのため、将来に取り崩せる含み益を持った資産が無い
- 現在まとまったお金を持っているけど、取り崩せば目減りしてしまう
- 目減りの速度を抑えるために、何かしらの収入が必要
言葉を選ばずに言えば、
退職で退職金や年金の脱退一時金などでまとまったお金はあるけど、若いころに投資をしてこなかった、今更になって、まとまったお金を減らしたくないし、少しでも手元の現金を確保したい
といった人に向いているのではないかと考えます。
そのため、まだ投資に時間を掛けることができる人は、素直にS&P500に連動する投資信託やETFをコツコツ積み立てる方が良いと考えます。その上で、毎月僅かでも収入を得たい場合に、JEPIも考慮に値すると思います。