外国人と日本旅行して感じたキャッシュレス推しの違和感

キャッシュレス
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クレジットカードが使えない?

2019年末に米国からアメリカ人の友人が日本へ旅行するということで、約一週間の九州縦断を一緒にしました。日本人が日本に住んでいると日常生活に完全に慣れてしまっているので普段疑問に思わないことも「なぜ?」と質問を受けることが多々ありました。

例えば、公共交通機関で飲酒が可能であることは、外国人がその場面をYouTubeに載せるくらい驚きのあることです。

そこで一番困ったことはでクレジットカードが使える場所が多くないことです。福岡市の街中であれば特に困ることはないのですが、郊外、地方に移動して、小さなお土産屋さんに行くとクレジットカードが使えなくなる頻度が増えてきます。それでもQRコード決済を扱うお店はあり、特にPayPayのマークは見かけました。

ただ、その友人にとってはQRコード決済は馴染みのないもので、そもそもクレジットカードのマークの横に沢山貼られているマークは理解できず、カードを使えるお店で非接触決済の機械をみつけても、NFC Pay仕様であるApple Watchに入っているVISAタッチが使えないことにはストレスが溜まっていた様子です。

QRコード決済の説明を一通りした後、彼らはマークに着目するようになったのですが、今度はアリペイのマークが漢字なので目に付くらしく「なぜ、中国だけに便宜を図るんだ」といったコメントもありました。

人間は心理学的にたとえ利用頻度が低くても「これをしたい」「これを使いたい」と思うときに、それができないと、とても不便に感じ不満に思うそうなので、クレジットカードやNFC Payの規格が使えないと「日本は遅れている」といった感想を持つことは容易に想像できます。

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キャッシュレスとは?

キャッシュレスとは何でしょうか。現金を使わずに決済するといった意味であれば、日本は口座振替などが発達しているので、すでにキャッシュレスは十分に普及しているといえます。いまだに給与が現金の入った封筒で支給されるというケースは少ないと思います。電気やガス、水道などの支払いも口座振替が過去からあります。

世間で言われている「キャッシュレス」は小売りの現場での狭義の意味ではないかと思います。実際に経済産業省のサイトを見ると広義のキャッシュレスについて触れている一方で、2018年4月「キャッシュレス・ビジョン」を公表していますが、この「キャッシュレス・ビジョン」は、2025年の大阪・関西万博に向けての「支払い方改革宣言」と銘打っており、消費者がお店で支払うケースを想定しているのではないかと思います。

2018年には同時にキャッシュレス推進協議会が設立され、設立時点で挙げられた主な活動は以下の三つです。

  • QRコード支払い普及への対応(標準化の取組)
  • 消費者・事業や向けのキャッシュレス啓発
  • 関連統計の整備 等

2020年の活動はこの記事を書いている時点では公表されていませんが、2019年の活動内容からも上記の活動から大きく方向転換はなく、QRコード決済を中心としたものとなっています。

QRコードは加盟店にとってメリット?

システムとしても成熟し、かつ進化の余地があるクレジットカード。Suicaをはじめとする交通系ICカードやその他ICカードでの決済などすでに複数の決済の仕組みがあるにも関わらず、ともすれば逆行している感覚も否めないQRコードの普及を何故推し進めるのでしょうか。

QRコードを導入するメリットとして語られるのは、加盟店側の導入、運用費用が抑えられること。専用端末の導入費用をゼロにすることもできるし、手数料もクレジットカードやICカードと比較すると定額で、キャンペーンで手数料も無料というケースもあります。

また現金以外の決済手段を提供することで、機会損失を減らすこともできるという話もあります。

導入、運用費用が抑えられ、機会損失も減らせられるとは言っても、小規模店の場合は切迫した状況があります。それは普段の運転資金をタイムリーに得ることです。QRコード決済事業者の入金サイクルを見てみると、各社によって異なるものの、即時、翌営業日、もしくは月に数回となっています。

そこで、上述のキャッシュレス推進協議会が2020年1月10日に公表したキャッシュレス・ポイント還元事業の事業開始前と事業期間中に実施した消費者と店舗向けアンケートの調査結果を見てみました。還元事業に絡めてのデータであることはご了承ください。

結果の中で「貴社での、キャッシュレス・消費者還元事業への参加による売上確保の効果についてお知らせください」「貴社での、キャッシュレス・消費者還元事業への参加による顧客獲得の効果についてお知らせください」の二問とも、6割以上が「効果がなかった」との回答です。

付け加えるならば、「貴社での、キャッシュレス・消費者還元事業をきっかけにキャッシュレスの支払い手段を導入/増やしたことなどによる、業務効率化への効果についてお知らせください。※業務効率化の例:両替の回数が減る、レジ締めの時間が短縮される等」も6割が効率化されてないと回答しているのも興味深いです。

データを細かく見ていくと示唆がありそうなので、別記事にしました。

日本の利用者にとっては?

利用者にとってはどうなのでしょうか。先ほどのアンケート調査で「キャッシュレス支払いの利用時に最大で購入額の5%のポイントが還元されることで、キャッシュレス支払いの利用について変化はありましたか」といった設問の回答結果から推計すると、7割の人がすでに「何らか」の形でのキャッシュレス決済を以前から行っています。

また13.1%が還元事業をきっかけにキャッシュレス決済を使い始め、29.3%は決済手段を増やしているとのことです。どのような決済手段なのかはわかりませんが、QRコード決済も含まれていると思います。

JCBが2000年から毎年実施しているクレジットカードに関する総合調査の2018年調査結果ではクレジットカード、電子マネーの保有率が両方ともそれぞれ84%です。 キャッシュレス推進協議会とJCBの調査の差異は母集団が異なることによると思いますが、日本では7~8割強の人にとってはキャッシュレスが馴染みのないものではない、という訳ではなさそうです。

コード決済に焦点を当てると、日経クロストレンドによる「47都道府県キャッシュレス決済普及率ランキング2020」が決済種別を複数回答形式できいており、QRコード決済が20.8%でした。最も多い決済手段はクレジットカードの69.6%です。

現在は還元事業があるためQRコードの利用が増加していますが、還元事業が終了する2020年6月の後はどのようになるかは注目です。

外国からの観光客にとっては?

JTB訪日旅行重点15カ国調査2019」の結果で傾向はつかめるのではないかと思います。気を付ける必要があるのは、 QRコード決済という単語の代わりに「モバイル決済」という単語が使われていることです。モバイル決済はQRコード決済以外も包含していますので、純粋なQRコード決済の利用状況まではこの調査からは把握しきれません。

台湾、香港、韓国からの観光客は現金、クレジットカードが占めています。東南アジアからの観光客は国により差はあるものの、現金、クレジットカードが多いですが、前述の台湾、香港、韓国と比較するとモバイル決済の割合が増えます。欧米各国では、クレジットカードが最も多く、次いで現金となっています。

異色なのが中国で現金、クレジットカード、モバイル決済の三つの決済手段に分かれています。調査レポートを読むと、国外に持ち出せる現金に制限がある、クレジットカードを持てる層が限定的といった中国ならではの事情によるものと考えられます。

人数が多く、一人当たりの支出額が高めの中国人観光客の財布の紐を緩めさせるには、QRコード決済は実は理にかなっているようです。

一方で、クレジットカードが使える店舗が増えるとその他の国からの観光客にも利便性を感じてもらえそうです。

実は商機をのがしていないか?

日本では、加盟店がクレジットカード会社へ支払う手数料の高さがクレジットカードが利用できる店舗が増えるのに障害になっていると言います。

一般的に聞くのは、売り上げの3%程度がクレジットカード会社の取り分となりますが、小規模の店舗ではこの割合がさらに高くなると言います。海外では0.3%程度と言われていますので、この差は大きいです。

とはいっても、決済手段を複数用意することで逃している商機を取り戻せる可能性もあります。

店舗側というよりも、決済事業者側の工夫(と投資)で解決できるのではないかと思っていますが、その話はいつかできれば書きたいと思います。