キャッシュレス推進協議会アンケートはお手盛り感満載

キャッシュレス
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一般社団法人キャッシュレス推進協議会とは何者?

「キャッシュレス決済は誰のため」という記事で、一般社団法人キャッシュレス推進協議会が公表したアンケート結果を一部引用・紹介しました。

この社団法人は一体何者なのでしょうか。

一般社団法人キャッシュレス推進協議会のサイトにある「キャッシュレス推進協議会について 組織・活動概要」というタイトルの資料を眺めると、 内閣官房日本経済再生総合事務局の未来投資戦略2017で掲げられた「2027年までにキャッシュレス決済比率を20%から40%まで引き上げる」という目標に始まり、未来投資戦略2018でキャッシュレス推進協議会の設立宣言がなされました。そして2018年7月2日に当協議会が設立され「業界横断で『キャッシュレス』について検討を開始」されています。

この協議会の会員企業になると年間5~70万円の会費を支払い、さらにプロジェクト参加時には追加料金を支払って業界横断的に活動できるようです。

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キャッシュレス調査とは?

調査概要

2019年に実施されたアンケートが「キャッシュレス調査」で、消費税増税を挟んでポイント還元事業前(9月)とポイント還元事業中(11~12月)に消費者と店舗向けにWeb調査で回答を集めています。

調査概要から見る疑問点

概要を見たときに持った疑問として、レポートだけ見てもわからないのが以下の三点です。

  • 母集団は誰なのか。特に10代の回答が他の年代と異なるので、年齢で切っていないのか。
  • ポイント還元事業前とポイント還元事業中に回答してもらっているサンプルは同一か。母集団はどうなのか。
  • 店舗のアンケートで、売上が大きいサンプルはどのように集めているのか。

概要からは分析を見る際に頭にとどめておくべき情報が少ない印象です。

調査結果から面白いところを拾う

この結果レポートは、

ポイント還元事業を通じて、消費者はキャッシュレス決済を使うようになったし、店舗も導入して効果を感じている。

という結論に結び付けたいという意図が読み取れます。少し結果を眺めてみましょう。

消費者アンケート結果

消費者アンケートの結果です。スクリーンショットを貼りますが、詳細はアンケート結果レポートをご参照ください。

還元事業の認知度

還元事業の認知度は実施前よりも当然のことながら実施中は高くなっています。年代ごとに見ても10代は他の年代よりも認知割合が低いものの、他の年代では大きなばらつきはありません。

キャッシュレス決済・支払い手段

還元事業をきっかけにキャッシュレス決済を始めたり、手段を増やしたという割合も増えています。下記のチャートだけでは、詳細はわかりませんが、クレジットカードや電子マネーに加えQRコード決済が増えた可能性があります。

チャート掲載はしていませんが、キャッシュレス決済の利用頻度が上がったという結果も示されています。

消費税増税前の駆け込み

「還元事業があるから消費税増税前に駆け込みで買い溜めしなかった」としたかったのでしょう。しかしながら、下記チャートを見ると、特に食品や日用品を駆け込みで買った人の割合は、ポイント還元があるから駆け込みで買い溜めしなかった人の割合と同じです。

一方で、耐久消費財やサービスは急ぐ必要がなければ、ポイント還元事業開始後の方が得になるケースもあるため、駆け込みしなかったのではないでしょうか。

とはいっても、大多数が「ポイント還元に関係なく、まとめ買いしなかった」という灰色のグラフが一番長く、このことには触れられていません。

店舗アンケート結果

店舗アンケート結果も興味深いです。

各グループの回答者数が小さいグループがあることと、回答者のベースが「キャッシュレス・消費者還元事業に『既に登録した』と回答した事業者(就業者)のみ」であることに注意して見てください。

キャッシュレス決済の導入

キャッシュレス決済導入をポイント還元事業をきっかけに行ったという割合は全体で3割強で、支払い手段を増やした割合は4割弱です。

右側の売上ごとの分析では、3億円が閾値となっています。特に売上が1,000万円以下では新規導入が45%と半分近いです。

導入の効果は限定的

しかし、導入はしたものの、売上への効果は芳しくありません。全体で6割が「あまり効果がなかった+効果がなかった」と回答しています。売上ごとに見ると、1,000万円以下の小規模な店舗は7割以上が効果を感じておらず、10億円より多い大規模店舗も、三分の2近くが効果を感じていません。

掲載は割愛していますが、「還元事業で顧客獲得に効果があったか」という設問も類似の傾向です。

キャッシュレス決済の業務効率も期待ほどではない

現金を扱う量が減ったから、業務効率化が図られたのではないか、という仮説があったために設定した設問だと想像します。6割の店舗が「あまり効果がなかった+効果がなかった」と回答しています。5,000万円以下の店舗では三分の2、1,000円以下では四分の3が効果を感じていません。

規模が小さい店舗では、導入はしてみたけど、売上もお客も増えないし、だからといって仕事が効率的になったわけでもないという回答です。推測ですが、小規模の店舗では顧客層や顧客人数が変わらず、現金扱いのままで導入効果は見られてないということでしょう。

結果を見てみると、ポイント還元事業の波に乗るために、キャッシュレス決済の導入、ないしは拡大をしたものの、多くがメリットを感じていない模様です。

理由はこの結果だけではわからないのですが、売上が3億円より多く5億円以下の店舗が、他のグループと異なり、売上、顧客獲得、業務効率に肯定的な回答をしています。この規模はショッピングモール・ショッピングセンターに入っているテナントくらいの大きさではないかと考えます。

もしそうだとすると、ショッピングモールやショッピングセンターの集客努力が実ったうえに、レジ締め業務が少し楽になったという効果があったのか、と空想したりします。

もっとも興味深い結果

個人的にもっとも興味深い結果は、下記チャートにある入金サイクルの変化です。

グラフ右側の回答数を見るとわかるように、上で見てきた回答者とベースが異なることは注意が必要ですが、困っている店舗は想像以上に少なかったことです。

意外な結果なのですが、キャッシュレス利用可能な店舗に限定しているので、もともと資金繰りに困るサイクルでビジネス運営をしているわけではないのかもしれません。

このアンケートの目的はいったい?

冒頭記載の通り、結果レポートが言わんとしていることは、

ポイント還元事業を通じて、消費者はキャッシュレス決済を使うようになったし、店舗も導入して効果を感じていて、上手くいっている。

ということだと思います。結果ありきで調査し、いざ結果を見てみたら「実態はそうではない」と困った挙句、レポートのコメントが「3割が効果を感じている」といった表現が踊るようになったと感じざるを得ません。

ただ、データとしては面白いところもあり、ポイント還元事業で現金以外による決済場面が多少は増えたり、プロモーションを行うことでメリットを享受できる場面もあることは確認できました。

2020年6月までこの還元事業が実施される予定ですが、夏以降の様子が気になります。