2025年2月25日にトヨタ・ウーブン・シティの Phase1竣工式が実施されました。いくつかのメディアでそのニュースも報じています。本竣工式に先立ち、2025年1月7日にPhase1の建築が完了したリリースが出ていたものの、それは見かけていません。
最初に本件に触れたのが、コロナ騒ぎが起きる前の2020年1月。その時は、e-Paletteを含め自動運転の実験を行うために私有地に街を作ろうと思ったのではないか、と書いています。
その後、すっかり忘れていましたが、久しぶりに記事を更新したいと思います。
CES
CES 2020 での発表から二ヶ月後
2020年1月にラスベガスで開催されたCESで、トヨタ自動車がWoven Cityという「コネクテッド・シティ」の実証実験プロジェクトを発表しました。
日系企業としては珍しくーと言っても過言ではないと思いますー豊田章男氏本人がプレゼンテーションをするというもので、トヨタ自動車の本プロジェクトに対する意気込みが伝わってきていました。
その後、トヨタはWoven Cityに関する情報を出すことはありませんでしたが、2020年3月24日にNTTとの資本提携が発表され、大物登場によりWoven Cityが進むことが期待されます。ただ、2025年1月7日時点、NTTはInventorsと呼ばれる実証実験参加企業のリストに名前を載せていません。
CES 2025
2020年のCESから五年、2025年のCESで竣工のプレスカンファレンスを行いました。豊田章男氏のプレゼンテーションでは、Phase1の街並みも見ることが出来ます。
2025年に人が実際に住み始め、最終的には約2,000人が居住し、実証実験を行っていく予定とのことです。
業務資本提携 – 第三者割当とは?
今回は業務資本提携であるため、お互いに第三者割当による自己株式の処分という形で行います。
第三者割り当ての自己株式処分とは、下図にイメージで示している様に、自社で発行している株式のうち、証券取引所で取引されていない自己株式を第三者に売却することです。

トヨタ自動車のプレスリリースによると、お互いに2000億円相当の株式を取得することになります。
- トヨタ自動車:NTTの普通株式8077万5400株(発行済株式総数に対する所有割合約2.07%、総額約2000億円)を取得
- NTT:トヨタ自動車の普通株式2973万900株(発行済株式総数に対する所有割合約0.90%、総額約2000億円)を取得
2000億円は大きな金額という印象ですが、それでもトヨタはNTTの2%程度の株式しか保有しないことになります。通信関連の大株主となっているKDDIの株式は2020年時点で12.82%を保有してました。2023年7月に政策保有株の一環として公開買付の募集をして保有割合を縮減しています。
2025年2月における保有は9.2%ですが、KDDIへの出資はが巨額です。
また、組織としてモビリティビジネス本部という販売促進を行う部署においても、トヨタ営業統括部およびトヨタ販売店営業部といった部門が2025年4月以降も残っているという事は、大きな販売網であることは変わりないことが窺えます。
トヨタと様々な会社との関係
業務資本提携としてNTTを選択した理由は、NTTグループ企業が自治体や他企業と協業しながら、街づくりに携わっているからと推察します。過去から自治体などと組み、様々な実証実験を行っているNTTは電電公社が民営化された企業だけのことはあります。
忘れてはいけないのは、上述の通り、トヨタはKDDIの大株主です。さらにソフトバンクとも戦略提携を結んでいます。これら会社との関係はどのようなものでしょうか。
KDDI:IoT世界基盤
まずは、KDDIとの関係を見ます。トヨタとKDDIは、2016年から「コネクティッドカー」を推進するための通信プラットフォームの構築を行ってきました。その後、KDDIは2019年にデータ分析、通信回線と諸外国での認証取得をひとまとめにした「KDDI『IoT世界基盤』」というビジネスプラットフォームをトライアル開始しています。
コネクティッドカーをベースとして、そのプラットフォームを世界各地で使えるようするビジネスを進めていこうとしています。
ソフトバンク:MONET Technologies
遡ること二年前の2018年にトヨタとソフトバンクはMONET Technologies株式会社を設立しました。新会社は、トヨタとソフトバンクの各社が持つコネクティッドカーの情報基盤、IoTプラットフォームを連携させ、2020年半ばまでにe-Paletteの「Autono-MaaS」という事業を目指していました。
KDDIのサービスとは異なり、MONET Technologiesはe-Paletteを活用したMaaSを国内で行うことを当初の事業目的としています。
NTT:街づくり
「クルマと何かのサービスを通信インフラでつなぐ」ということであれば、移動体インフラでも充分ですが、街を作るとなると、NTTグループの事故・事件の予測、分析やエネルギー管理を進めたスマートエネルギーに対する知見は非常に有用です。
街という箱の中で人が社会生活を営み、その社会インフラの一つとしてe-Paletteを進めようとしているトヨタが、Woven Cityという実験都市を作る相手としてNTTを選び、業務資本提携に至ったのは合点がいきます。
Woven Cityはトヨタだけでは完成できない
2011年の東京モーターショーでトヨタが「走るスマートフォン」と銘打ってコンセプトカーの「Fun-Vii」をお披露目してから7年後の2018年にe-Paletteを発表。そして同年ソフトバンクと新会社を設立。
付け加えると、トヨタは2019年5月にパナソニックと「プライム ライフ テクノロジーズ株式会社」という街づくり事業を行う合弁会社設立に向けた提携を発表しています。この新会社は2020年1月7日に設立されました。同社サイトにはWoven Cityの文字は無いものの、事業内容が「街づくり事業」「新築請負事業」「住宅内装事業」「不動産流通・管理事業」といった、将来的にWoven Cityにかかわるのは確実と思われます。
当然のことながら、トヨタだけでWoven Cityを作ることはできません。建設会社など単に箱モノを作るだけではなく、ソフトウエアやAI構築に向けたデータ収集、分析のために、様々な企業がWoven Cityに何かしらの形でかかわってきています。
NTTとの資本提携で役者が揃ってきました。しかし、まだこれからも提携を結ぶ企業があるかもしれません。これからのWoven Cityの進捗が楽しみになってきました。
両社の株価
今の状況では不透明
最後に、2020年3月24日の発表後、両社の株価はどうなったか。
まずはトヨタ自動車です。発表のあった翌日である3月25日寄付きから一気に400円近く上がり、6,600円近くとなりました。
NTTの株価は、24日の発表後、急激な値上がりをしたわけではないものの、200円近く上昇して2,700円に近付いています。
本件はネットニュースのいくつかでも取り上げられ、個人的にも興味のある話題でしたが、市場は新型コロナウイルスで株式市場が荒れていることもあり、株価から何かの示唆が得られるということはなさそうです。