大和アセットマネジメントが運用する投資信託に「iFreeNEXT」シリーズがあります。
iFreeシリーズとの違いはよく分からないものの、iFreeシリーズの派生形に思えます。2021年7月現在のラインナップは以下の通り。
- iFreeNEXT NASDAQ100インデックス
- iFreeNEXT FANG+インデックス
- iFreeNEXT NASDAQ次世代50
- iFreeNEXT ATMX+
- iFreeNEXT NASDAQ バイオテクノロジー・インデックス
余談ですが、NASDAQ100インデックスファンドが「iFreeNEXTシリーズ」でレバレッジNASDAQ100は「iFreeシリーズ」と言うのが興味深いです。
ラインナップを見ると、新興企業の株を中心とした投資信託商品が「iFreeNEXT」シリーズに含まれているのでしょう。
さて、このiFreeNEXTシリーズで最も新しい投資信託が2021年7月9日に設定されました。その名も「iFreeNEXT ムーンショットインデックス」
米国人YouTuberが話すフレーズやRedditでの書き込みに「Go to the moon!」と、銘柄の値上がりを表現することがあります。それと何か関係があるのでしょうか。
そもそも、これはどのようなファンドでしょうか。
VOICEROID動画解説
本記事の内容の一部を、約十分の動画にしています。ぜひご覧ください。
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「次世代のイノベーション企業へ投資」
大和アセットマネジメントの特設サイトには「次世代のイノベーション企業へ投資」と、興味をそそるフレーズが躍っています。
読み進めていくと、ケネディ大統領の話が触れられ、ムーンショットの意味が書かれているので一部引用。
<前略>ついに1969年、米国は人類初の有人月面着陸を成功させ、人々は歓喜に沸きました。
このように大きな困難などを伴うものの、成功すれば大きな成果が期待できる野心的な目標や計画、研究などを表す言葉として「ムーンショット」が使われています。
https://www.daiwa-am.co.jp/ifree_series/next_moonshots/index.html
ムーンショット (Moonshot) という単語の意味を Cambridge Dictionary で調べると、「ほぼ不可能に思えることを成し遂げるための計画」と説明されています。
内閣府が行っている怪しい計画の、ムーンショットとは異なり、不可能にも見えることを成し遂げるためのイノベーションを生み出す企業に投資をするファンドと言えそうです。
ベンチマークはS&P Kensho Moonshots Index
説明を更に読み進めていくと、指数、つまりインデックスに連動した商品であることが分かります。
そのインデックスは「S&P Kensho Moonshots Index」
「S&P Kensho」とは聞き覚えがあり、AIが銘柄選定するインデックスを提供しているあの会社。eMAXIS Neoシリーズの投資信託で聞いた名前です。S&P500やダウ平均といった定番インデックスを提供する S&P Global ですが、Kensho では尖ったインデックスを提供しています。
S&P Kensho Moonshots Index概要
この S&P Kensho Moonshots Index はどのようなものなのか、S&P Global の説明を見ていきましょう。
- 50社を選定
- 選定は「Early-Stage Composite Innovation Score」に基づく
- 母集団は S&P Kensho New Economy Indices ないしは特定のGICSの産業サブカテゴリーにある、米国で上場されている企業
- Early-Stage Composite Innovation Score は年次の決算資料に書かれているイノベーション関連のキーワードを基にスコア化
- 株式の三か月間の取引平均が一日当り100万ドルを上回る必要がある
ちなみに、GICSはインデックスを提供しているMCSI社の定義であり、正式名称は「The Global Industry Classification Standard」と言います。
Early-Stage Composite Innovation Scoreの算出方法
上記の概要に書かれている様に、決算資料にある文言でスコア化するというのは、Kensho社らしい選定方法だと感じます。
しかしながら、この「Early-Stage Composite Innovation Score」はどのように計算をするのか。算出根拠はS&P Globalによって資料で提示されています。
文書では難解な計算式や文字列が並んでいますが、根本となる式は下記の通り。
Early-Stage Composite Innovation Score = Adjusted R&D Ratio * Innovation Sentiment Score
式中の「Adjusted R&D Ratio」は数値で表現でき、資料の説明を読んでも統計の知識があれば理解は難しくないでしょう。
一方、「Innovation Sentiment Score」の式は数学の知識がない私には難解と感じました。それでも頑張って理解したところでは、企業の決算資料等に記載されているイノベーション関連の単語やフレーズの出現頻度を基にスコアを算出しているということです。
iFreeNEXT ムーンショットインデックス
基本情報
本ファンドの基本情報は以下の通りです。(2021年7月23日時点)
- 設定日:2021年7月9日
- 運用会社:大和アセットマネジメント株式会社
- 信託報酬:年率0.77%(税抜0.7%)
- 純資産:3.66億円
生まれたてのホヤホヤなので、純資産はこれからという規模です。
また、信託報酬は、S&P500や全米株式などに連動する商品よりは高いものの、この手のファンドとしては標準的と言えるでしょう。
補足:記事初稿を書いてから約一ヶ月、純資産は4.51億円となっていました。
販売会社
この投資信託の販売会社はかなり限定的で、2021年8月時点では以下の三社です。
- SBI証券
- auカブコム証券
- 楽天証券
組入銘柄
ファンドに組み入れられている50銘柄は以下の通りです。組入比率は1%台から3%以内と、均等に近い配分です。
見聞きしたことのある会社を探してみると、先日リチャード・ブランソン氏のフライトが成功した Virgin Galactic やルンバでお馴染みの iRobot そしてクラウドストレージの Dropbox などがあります。
個人的に意外だったのは、Nikola が含まれていることです。丁度一年前の今頃(2020年夏)に何かと話題になった燃料電池車のメーカーが本ファンドでの投資対象となっています。
加えて、Electrameccanica Vehicles (SOLO) や Workhorse (WKHS) といったEVメーカーも含まれており、不思議な選定と感じています。
なので、月に行けるような宇宙開発の銘柄を集めたファンドではないことが分かります。
セクター別 / 国別構成
企業名だけ眺めても、どのような会社なのかが分かりにくいので、セクター別の組入構成を確認します。このセクター区分はGICSに基づいています。
案の定、IT関連が半分近くを占めます。ヘルスケアはもっとあるかと思ったのですが、二割弱でした。
金融は2.2%とごくわずかで、米国では、金融イノベーションもあると思っていたのですが、本ファンドでは組み入れ割合は限定的となっています。
更に、S&P Globalでは国別の組入構成の情報も公開しています。
当然と言えば当然ですが、米国企業が三分の二を占めており、中国が続いています。Nano Dimension が含まれている通り、イスラエルの会社も本インデックスに組み入れられています。
基準価額推移
最新の基準価額は大和アセットマネジメントのサイトで確認をしてください。
念のため、設定から一ヶ月強の基準価額の動きを追うと、現在は米国株式が奮わないこともあって下がっています。
言うまでもなく、このような超短期間で本投資信託の運用について結論をつけることは良くないと思っていますので、あくまでも参考としてご覧ください。
余談:Kenshoとキャシー・ウッドは相容れない
余談というか、もう少し深掘りしてARK Invest のETFに組み入れられている銘柄と重複があるのかも調べてみました。
その結果は以下の通り。重複は少なく、S&P Kensho Moonshots Index の50銘柄中、6銘柄のみがARKのETFに組み入れられています。
重複銘柄を見てみると、Penny Stockと言われていた、3Dプリンターの Nano Dimension とウエアラブルデバイスのVuzixのみが、私が知っている会社です。
eMAXIS Neoと同様に重複が少なく、Kensho社の選定方式とキャシー・ウッドの選定方針は相容れないのだと再確認できます。
このファンドは様子見
テーマとしては、面白い投資信託だと思います。
企業の選定が財務内容よりも、イノベーションにどれだけ力を注いでいるかと言う基準は、夢を買うという意味ではありだと思います。
しかし、昨年話題に上がったものの、現在は投資するか迷うような銘柄が数銘柄含まれている点は少々引っ掛かります。
加えて、投資信託商品であるが故、信託報酬の支払いが定期的に必要になること、株式取引ほど機動力がない点をどう考えるかも躊躇う理由になっています。
現時点では、大化けするかは判断しにくいと思っています。ただ銘柄入替が行われることもあるはずなので、現状は様子見です。仮に投資をしても長期保有ではないと思います。
一方で、手間をかけずに、夢のある企業に投資をしたいというニーズには向いていると思います。繰り返しとなりますが、投資判断に際しては、内容の吟味をお勧めします。