GameStop(GME)株は、1月29日の終値が325.00ドルと前日比67.87%の上昇でした。
週の前半から100ドル前後を推移していた株価は27日に大きく上がりました。28日は市場が開いた直後に急激な値上がりとなったものの、一気に下落します。
この28日の動きは、大きな売りが入ったわけですが、何故突然売られたのか。
それは、買付注文ができなくなったからです。
前回記事にも書いた通り、楽天証券でも買付ができなくなりましたが、米国で複数の証券会社で買付注文が出来ず、売付注文のみの受付となりました。
Robinhoodも買付注文を停止し、これが個人投資家の怒りを買うとともに、その理由に対する噂が飛び交っています。
復習
前回の記事
1月29日までに起きた一連の騒動を記事にしています。
ゆっくり解説動画
前回記事にも同じ動画を掲載しており、こちらは概略を5分もかからずに確認することができます。
予備知識
噂話をする前に予備知識です。
登場人物
- Broker(ブローカー):仲買人。日本で言うと私たちが株式取引に利用している証券会社。ブローカーは投資家の注文を処理したり、資産の管理を行う。
- Clearing Broker(クリアリングブローカー):ブローカーが投資家から受け取った注文を実際に処理する業者。
- Clearing House(クリアリングハウス):複数のクリアリングブローカーが実際に株式の売買注文を処理する。ここでは株取引に対して担保を預かる。
- Market Maker(マーケットメイカー):株式の流動性を確保するため、投資家が常に株式売買ができるよう、株式売買を行う業者。証券取引場から任命される。
各役割
これら登場人物の役割を図示します。
売買成立後に受渡に二営業日が必要など、実際はもっと複雑ですが、概要把握のために簡略化しています。
ブローカーに株式の売買注文を出してから、実は裏側ではこのような動きが発生しています。
- 投資家が注文を出す
- 受けた注文をブローカーが、クリアリングブローカーに渡す
- クリアリングブローカーが、受けた注文を基に売買を成立させる
- 注文結果をブローカーに返す
- 注文結果を投資家に返す
登場人物と各役割の関係
各登場人物と役割を当てはめます。
- Broker(ブローカー):Robinhoodやwebullなど
- Clearing Broker(クリアリングブローカー):RobinhoodやDTCC
- Market Maker(マーケットメイカー):Citadel
上記に追加して、空売りを仕掛けているヘッジファンドのMelvin Capitalという会社があります。
先ほどの図に、会社を重ね合わせます。
ここでは、Robinhoodは2018年10月18日付のブログでクリアリングブローカーとなったことを表明している通り、ブローカーとクリアリングブローカーの役目をRobinhoodが担っているという点を記憶に留めます。
なお、webullというブローカーは、CTCCというクリアリングブローカーに委託しています。
Robinhoodの収益源
Robinhoodが株式取引に参入した時、手数料無料というのは衝撃でした。
競争が激化し、取引手数料は安くなっていましたが、Robinhoodは無料です。
こうなると個人投資家も気軽に株式投資に参入できるだけでなく、取引手数料がないため、頻繁な取引が必要なスイングトレードで利益を上げる人も出てきて「Robinhood Investors」という単語まで生まれました。
現物の株式取引手数料は無料
取引手数料無料のビジネスモデルが成立している理由として、過去に日本のオンライン記事で見たもので、手数料無料の現物取引で株に慣れてもらい、オプション取引などに興味を持ってもらう。無料で顧客を育てて有料のサービスを使うように誘導する、といったものがありました。
実際、Robinhoodの売上げはオプション取引に加え、有料の情報提供サービスなども含まれています。しかし、それだけではなくマーケットメイカーにOrder flow(注文フロー)を渡すことでも収益を得ています。
注文フローによる収益
Robinhoodはマーケットメイカーに投資家の売買データを提供して、データ料としてお金を受け取っているという話があります。
どういうことかと、Business of Appsの記事をはじめ、いくつかの記事を読んだり情報を探したりすると、少し様相が異なります。私の理解では以下の通りです。
株式の売買注文が入ったら、その注文を成立させるために、同条件の売買注文を入れている人を探します。例えば、一株30ドルの買付注文であれば、その価格の売付注文を探します。
常に価格条件が合うことはないので、マーケットメイカーの登場となります。マーケットメイカーは流動性を確保するために取引を行い、投資家にとって最善の取引になるようにするのですが、Robinhoodはマーケットメイカーに常にCitadelを使い売買を成立させます。
Citadelで行われている売買では、後述するフロントランニングというものが行われていたという話もあり、このことで、RobinhoodはCitadelに取引を優先的に回して手数料を受け取るという構図になります。
この辺りのRobinhoodとCitadelとの関係が、投資家の売買データ販売といった話になっているのではないかと言われています。
もう一人の登場人物 – Melvin Capital
GameStopの件では株式取引の業者に加え、Melvin Capitalというヘッジファンドも登場します。
GameStop株に空売りを仕掛けていたヘッジファンドの一つです。
空売りの期日、つまり借りた株を返すための買い戻し締切日が迫っています。しかし、市場には流通している株式は少なく、値も極端に上がっています。
報道ではMelvin Capitalは現地時間の1月26日に巨額の損失を出し、空売りのポジションをクローズしたと伝えています。また、Melvin Capitalを含むヘッジファンド全体で50億ドルの損失があったのではないかと言われています。
噂話
情報が広がっているので、一旦整理します。
- ゲームの実店舗販売をメインにしているGameStopは業態として斜陽であった
- それに目を付けたヘッジファンドが空売りを仕掛ける
- 2020年後半からGameStopの株式の買いがあり、値が上がる
- 2020年に大口買いをしていた人が、2021年1月にGameStopの役員となり、会社改革宣言
- RedditのWall Street Betsでこのことに気づく人が登場
- 会社の応援も含め、空売り勢を懲らしめたいと賛同した人がGameStop株を買う
- 1月27日からGameStopの株価が暴騰
- 1月28日 10:00からGameStopの株の買付停止、現在は買付制限
噂話その1
Robinhoodの収益源には注文フローがあります。マーケットメイカーであるCitadelに優先的に注文を回すことで、Robinhoodは手数料収入を得ています。
実はこのCidatelは、もう一人の登場人物であるMelvin Capitalにも投資をしていて、投資先のMelvin Capitalが損失を被るのは避けたいと考えるのは想像に難くありません。
個人投資家がRobinhoodを経由してGameStop株の買い注文を入れてきたことに危機感を抱いたCitadelが圧力をかけ、Robinhoodが応じたという話がひとつの噂です。
この噂話には、注文成立のための買価計算を有利に進めるフロントランニングと言われることを、マーケットメイカーのCitadelと一緒に行っていたのではないかという話も加わります。
売買価格が会社側に有利と言っても顧客には気づかないレベルのレートなのですが、日々の取引量は膨大なので無視できません。
こういった話が加わると、RobinhoodはCitadelには抗いにくくなります。
噂話その2
Margin Tradingによる会社破産を避けるため、という話もあります。
Margin Tradingを日本語に訳すと「証拠金取引」で、FXをご存じの方は馴染みのある単語でしょう。一定額を入金して証拠金の数十倍の取引、いわゆるレバレッジをかけての取引です。
株価の急激な変動で、レバレッジをかけた分をRobinhoodが賄いきれず、現金が不足する事態になり緊急融資を受けているという話もあります。
すなわち、自社のビジネスが危なくならないように取引を止めたという話につながります。
この話は、イーロン・マスクとRobinhoodのCEOであるVladimir Tenev(日本語読みはウラジミール・テネフ)とのClubhouse上での会話で、米国西海岸時間で夜中の三時にクリアリングハウスから30億ドルの担保を要求されているという話を社員から聞いたという発言があり(筆者注:上手く聞き取れていないかもしれません)、この噂話に信憑性を持たせる雰囲気はあります。
噂話その3
財務長官のジャネット・イエレンが、80万ドルをCitadelから講演料として受け取っているという報道も憶測を広げます。
何かしらの便宜を図るために取引を止めるように指示をしたのではないか。
集団訴訟も
噂話から、Robinhoodは仕方なく取引停止に応じたかのように見えます。
一方で、そうではないと捉える人もいます。その理由は最初の登場人物と役割にあったように、Robinhoodはクリアリングブローカーでもある点です。
1月28日にGameStopの買付は、複数のブローカーで出来なくなりました。その内の一つがwebullで、同社はDTCCというクリアリングブローカーに注文を出しています。webullでの取引ができなくなったのは、DTCCによるものとwebullのCEOは述べています。
Robinhoodは自身がクリアリングブローカーであるので、不可抗力が入る余地はないから、より悪質だという意見があります。
この話に呼応してか、ニューヨーク州では集団訴訟が提訴されています。
真実が公になる日が来るのか
事態が発生して日が浅い週末ということもあり、今のところは噂と憶測が飛び交っています。
Google Playストアでは、Robinhoodのアプリの評価が星一つにまで下がったはずなのに、低評価が削除されて、星が四つくらいまで戻っているという話もあります。
この件については、私の環境でRobinhoodアプリが表示されないので確認しようがありませんが、webullのアプリは表示されるのにRobinhoodが表示されない理由は何か、上述の件と一緒に考えてしまいます。
こういった状況の中で真実が公になる日が来るのか、このまま有耶無耶になるのか。米国株に投資をしている身としては気になります。