日本人に、米国ETFで高配当な銘柄を問うと、SPYDという回答になるのが最近の傾向ではないかと思っています。
正確な統計がない上に、私のパソコン、スマホの環境が日本であることも影響しているでしょうが、Google検索で言語を問わずに「SPYD」を検索すると日本語のサイトが上位に上がってきます。またYouTubeでも日本人によるSPYD関連の動画が多くヒットします。
一方で、過去記事でも何回か触れている様に、米国人はSPHDなどSPYD以外の銘柄を言及しています。これには、選択できるETFの種類が我々よりも多いことにも因るでしょう。
SPYDの年間配当は2020年度は1.52ドルを予定しています。SPYDの株価が奮わないこともあり、配当利回りが4.86%(2020年11月13日時点)と非常に高い数字を弾き出しています。個人的には悪くないETFと捉えています。
しかし、他にも選択肢があるのだから、そこにも目を向けた方がよいのではないのかと思い立ち配当ETFを物色してみようと考えたのがこの記事です。
今回は「バンガード・米国増配株式ETF(VIG)」
【注意】本銘柄は個人の意見として記載しているのみで、推奨されるものではありません。ETFの商品内容を確認した上で、ご自身の責任で投資判断を下してください。
VOICEROID解説動画
本ETFについて、VOICEROID解説動画を作成していますので、ご覧ください。
基準となる指数
VIGの英語名称は「Vanguard Dividend Appreciation ETF」で、日本語は「米国増配株式ETF」と気になる単語が並んでいます。
本ETFはSBI証券、マネックス証券、楽天証券で取扱いがあります。
どのようなETFかについて、Vanguard社のVIG紹介のサイトからいくつか情報を拾います。
以前の指数は、NASDAQ US Dividend Achievers Select Index
NASDAQ US Dividend Achievers Select Indexとは
VIGは「NASDAQ US Dividend Achievers Select Index」に連動する商品です。指数と言うとS&P Globalの印象が強いですが、今回はNASDAQが提供している指数となります。
さて、この「NASDAQ US Dividend Achievers Select Index」はどのような指数なのでしょうか。
NASDAQのサイトを見ると、2000年1月31日設定の、「最低十年間連続で増配をしている株式銘柄で構成される」インデックスと説明しています。なお、インデックスとしては2006年3月29日から歴史を刻んでおり、1169.75でスタートしています。
この1169.75の単位は不明ですが、数値は以下の式で算出されているとのことです。
The formula for index value is as follows:
NASDAQ
Aggregate Adjusted Market Value/Divisor
The formula for the divisor is as follows:
(Market Value after Adjustments/Market Value before Adjustments) X Divisor before
Adjustments
指数は、調整後時価累計÷除数で算出で、この除数は、調整後時価÷調整前時価 X 調整前除数で求められます。個人的には除数を求めるための除数は何なのかが、分からないのが突っ込みたいところです。
NASDAQ US Dividend Achievers Select Indexに含まれるには
本インデックスに含まれるには、普通株式であるという条件が冒頭に記載されています。そして、他の条件は以下の通りです。
- 合資会社(Limited Partners)とREITを除く、NASDAQ US Broad Dividend Achievers Indexに含まれている
- 追加で独自基準を適用
非常にシンプルな基準です。と言いたいところ、ここで出てきた「NASDAQ US Broad Dividend Achievers Index」という新しい言葉。このNASDAQ US Broad Dividend Achievers Indexを調べると、「最低十年増配を続けている銘柄」と記載されており、同じことの繰り返し。
いずれにしても、増配を続けられる業績の会社の株式が含まれているという事と理解しました。
銘柄入替
銘柄の評価は毎年三月に行われます。条件を満たした銘柄はインデックスに含まれ、追加や削除は三月の第三金曜日に市場が閉じた後の実施です。
そして、一つの銘柄で4%を超えないように調整が、二月の最終営業日に行われています。
現在の指数は、S&P U.S. Dividend Growers Index
VIGの指数は、2021年9月20日から変更になっており、S&P U.S. Dividend Growers Index という指数に変更になっています。
この変更による影響が気になりますが、VIGの目論見書を見ると、NASDAQ US Dividend Achievers Select Indexから、S&P U.S. Dividend Growers Index への移行に際して、中継ぎの指数も使っているとのことで、恐らく影響は無いと思われます。
この指数の選定について、大きく以下の三つが挙げられます。
- REITは含まず
- 三ヶ月間の日次取引量の中央値が100万ドルを超える流動性がある
- 10年増配がある
また、銘柄選定時には、配当利回りで順位付けを行うのですが、その際上位25%は除外をするという方針もあります。
この点は、一瞬疑問に感じます。
理由は、S&P Dow Jones Indices のブログに書かれています。その内容を一言で触れると、配当利回りは株価に影響を受けるため、極端に市場の評価が低く株価が下がっていると、配当利回りが大きくなります。
これを「配当の罠」と呼んでいて、現時点の利回りは高くても成長があると考えにくいとS&Pでは調査に基づき、そのように考えています。
確かに、そのような銘柄は株価の変動も大きい上に、将来の増配が見込まれにくいと想像に難くありません。いわゆる、統計学的には「異常値」となりうる数値を持つ銘柄を外すという考えを採っています。
どのようなETFなのか?
VIG基礎情報
基礎情報はSPYDとの比較で下記に一覧にしてみました。
VIG | 参考:SPYD | |
---|---|---|
設定日 | 2006年4月21日 | 2015年10月22日 |
経費率 | 0.06% | 0.07% |
総資産 | 765億ドル | 52億ドル |
配当利回り | 1.77% | 4.86% |
2021年度年間配当 | 2.66ドル | 1.55ドル |
株価(2021年12月23日時点) | 168.83ドル | 41.28ドル |
投資信託の信託報酬に相当する経費率はほぼ同水準ですが、わずかにVIGが下回る。純資産額はSPYDを遥かに凌ぐ額です。
配当利回りはETF名からもどれくらいなのか気になりますが、実際は1.77%と拍子抜けするかもしれません。ただし、株価がSPYDの四倍近くあるため納得です。一方で、配当の絶対額はSPYDよりも大きい額となっています。
VIGのパフォーマンス
改めて、VIGの株価は2021年12月23日時点で168.83です。VIGの設定来のパフォーマンスは10%を超えています。
Vanguard社のサイトで、VIGの過去十年間のパフォーマンスをS&P500など他の指数などと比較することができ、参考までにそのチャートを下記に掲載します。
チャートの見方は、一万ドルを十年前に投資をしていたら、現在幾らになっているかというもので、三万ドルを超える額となっています。
とはいえ、過去十年を見ると。S&P500がVIGよりも大きく成長しているという結果となっています。
構成銘柄
VIG構成銘柄は、2021年11月30日時点で、268に及びます。この記事の初稿を書いた2020年10月時点の銘柄数は212であったので、新しい指数を使ったVIGの銘柄は増加となりました。
すべての銘柄をここに書き出すのは適切ではないので、SPYDとの比較をセクターや上位銘柄で見ていきます。
セクター比較(2020年時点)
注:SPYDとのセクター比較は初稿時の2020年の情報。
まずはセクター比較です。VIGの構成は以下の通り。
もっとも高い割合は一般消費財で、資本財、ヘルスケアと続きます。
今度はSPYDです。
金融が最も高い割合を占めており、不動産と続きます。現在、SPYDの銘柄数は80から79銘柄に減少しています。
参考:セクター比較(2021年時点)
参考までに、2021年11月末時点のAIGのセクター構成を掲載します。前年と比較すると、金融の割合が増加している点が目に付きます。
上位十銘柄比較
続いて上位銘柄を見ましょう。VIGは2021年11月30日時点、SPYDは2021年12月16日時点の情報です。
VIG | SPYD | |
---|---|---|
1 | Microsoft Corp. | Pfizer Inc. |
2 | Home Depot Inc. | Comerica Incorporated |
3 | JPMorgan Chase & Co. | Broadcom Inc. |
4 | UnitedHealth Group Inc. | Seagate Technology Holdings PLC |
5 | Johnson & Johnson | Simon Property Group Inc. |
6 | Procter & Gamble Co. | KeyCorp |
7 | Visa Inc. | Edison International |
8 | Costco Wholesale Corp. | Baker Hughes Company |
9 | Comcast Corp. | M&T Bank Corporation |
10 | Accenture plc | Chevron Corporation |
VIGは上位十銘柄で30.5%を占めているのに対し、SPYDは各銘柄ほぼ均等割合であるため、上位十銘柄でも15.1%となっています。
また、銘柄を眺めてみるとSPYDには日本人には馴染みがなさそうな銘柄が多く並んでいます。有名なのはファイザーやシーゲートくらいでしょうか。
対してVIGの上位銘柄は有名どころが並んでいます。いわゆる、ブルーチップ企業という顔ぶれと言えそうです。
配当金履歴
VIGの配当金履歴は四半期ごとの支払いです。下記のチャートにある通り、凸凹はあるものの、概ね増配傾向にあります。
有名な会社にごそっと投資
VIGをSPYDと比較しながら見てきました。
名称で大きな配当金を期待してしまいそうですが、配当利回りはSPYDから見劣りする印象です。
それは選定基準が異なることと、VIGの指数であるS&P U.S. Dividend Growers Indexは、配当利回りで上位25%を除外していることもありますが、「増配」という点にもトリックがあると考えます。
配当利回りで順位付けを行っていますが、その前提となるのが増配。僅かでも増配を続けていれば選定の条件に合致するため、高配当/好配当を謳うETFと比較すると見劣りする恐れがあります。
配当に成長に目を向けると、VIGには優良な大企業が含まれています。ある意味、成熟した企業であるため、大きな成長は見込みにくく、実際に過去十年ではむしろS&P500の方が高いパフォーマンスとなっています。
そのようなVIGの総資産額が非常に大きいということは、十数年という歴史と共に支持があるのは理解ができます。
個別株で配当金狙いとして、VIGに含まれる銘柄を個別に買い集めるにはそれなりの資金が必要になります。しかし、それをVIG一本で賄えるというのが本ETFの魅力と捉えても悪くはないと思います。