全力投球で生きていますか?

ブックレビュー

星をつけないブックレビュー

投資とは別に、読んだ書籍の中でおススメしたいものを紹介します。全て5つ星=おススメ。なので、評価はせずに内容や思ったことを綴ります。

第三回目は「伝えることから始めよう」


ジャパネットたかたという会社をご存じでしょうか。テレビショッピングでテンションの高いMCが電気製品を紹介しているというイメージが浮かべば、その通りです。

ジャパネットたかたを創業し、社長を務めたのが高田明氏です。現在は社長のポジションを息子の旭人氏に譲り別法人を立ち上げ、第二の人生を謳歌しています。

高田氏はダイヤモンドオンラインへの記事を寄稿したりしていますが、今回手に取った一冊は初の自著である「伝えることから始めよう」です。

スポンサーリンク

言ったはず、伝えたはず…

書籍の帯には「伝えたつもりが、ちっとも伝わらない」とあります。

耳の痛い言葉です。会社や私生活で「言ったはずなのに…」「伝えたはずなのに…」という場面にしばしば遭遇します。自分は「伝えたつもり」でも受け手にとっては「伝わってない」という現象は決して珍しいことではありません。

どのように伝わるようにするか、というテクニックを伝授する内容ではなく、高田氏の人生をなぞったり、ジャパネットたかたの運営の仕方を振り返ったりしながら、氏が心掛けてきたことを見ていきます。

本書は全五章で構成されています。

テクニックに近いことが書かれているのは第四章です。簡単に答えを拾いたい読者は第四章だけを読みたくなるかもしれません。しかし、何故そこに至ったのかを知るには、第一章から順に読み進めていくことをお勧めします。

と伝えることの大切さを説いている本に思えますが、私は「あなたは全力投球で生きていますか?」と問われている様に感じました。とにかく高田氏は全力で仕事をしてきています。

スポンサーリンク

実家のカメラ店~ジャパネットたかた

実家のカメラ店を手伝う

高田氏がジャパネットたかたを興す前は、佐世保にある実家のカメラ店を手伝っていたというのは、割と知られている話です。

第一章、第二章では、実家のカメラ店を手伝ったときの話と、カメラ店を手伝う前の学生から、就職した会社を退職するまでの話を含め、高田氏の30代までを振り返ります。

実家のカメラ店は写真館で、カメラ販売の他にホテルなどの宴会場で撮影をし、その写真販売を行うこともしていました。前日に撮影をして夜中に現像、翌朝に観光客に自分の写っている写真を買ってもらう。

その中で、写真を買ってくれる人は地域によって異なることを学んだり、どうすれば枚数を多く売ることができるのかを工夫したりしていきます。

事業の拡大

後にカメラ店は事業規模を拡大し、新たな支店を任されます。新たな支店を高田氏は夫婦で取り仕切っていきます。

新しい支店の売上げを大きくするために、カメラ販売に力を入れ新規顧客を開拓します。カメラ販売のみならず、プリントも当時最新鋭の現像機をリースして「当日仕上げ」を実現し差別化を図ります。

更に支店を増やし、カメラだけではなく家庭用ビデオカメラへ商品を拡大し、ソニーのビデオカメラの販売に乗り出します。ビデオカメラをただ売るのではなく、現像のためのフィルム集荷を利用し、訪問先でデモを行う、そのほかにも販路の拡大といった工夫を重ね、ソニーがパスポートサイズのハンディカムを発売した時には、九州の特約店で一番の売上げを上げることができました。

この時期からラジオCMも開始しています。

メーカー勤務時代

第二章では一旦時間をさかのぼり、高田氏の幼少時代から大学時代、そして大学卒業後に就職したメーカー時代の話になります。

氏は、得意の英語と大学でのESS活動、さらに就職した会社での努力もあり、欧州駐在を経験することになります。

当時の世界地図は現在とは異なります。今とは別世界の欧州で短期間ながらも多くの経験を積みます。

私が読み進めていく中で特に記憶に残った話は、メーカーの社長と一緒に出張した先で、高田氏はバスの中でうたた寝をしてしまいます。社長は氏に向かい「バスの中から見る景色も人生の勉強」という言葉をかけます。

自分が見聞きするものすべてが人生の勉強で、無駄になる経験はない、と伝えたかったのだと思います。これは私も人生を振り返るとその通りだと感じています。

ラジオショッピングからテレビショッピングへ

ラジオCMからスタートし、テレビショッピングにたどり着くまでの道は平坦ではありません。

地場の会社が全国規模になるまでの道のりが第三章で綴られています。

地元ラジオ局で五分のラジオショッピング枠を使い、カメラの紹介をします。期待をはるかに上回る売り上げを得ました。そして事業拡大のために放送局を開拓しようとしますが、無名の会社はそうそう簡単に相手にされません。

それでも諦めずに、営業活動を続けている中、ふとしたきっかけで九州、中国、四国と広いエリアでラジオショッピングを展開することができます。

この後、東京、大阪のキー局を除いてほぼ全国にまでラジオショッピングを広げ、会社が大きくなるのに合わせて、テレビショッピングへの参入、カタログ販売と販路を拡大します。

更にはスタジオ建設をするまでに至り、生放送でのテレビショッピングを行うことになります。こうして、あのジャパネットたかたのテレビショッピングを形作っていきます。

伝えるとは

本書は、高田氏の語り調で話が進んでいきます。

そのため第三章までは、高田氏の声をご存じの方は、声を脳内再生しながら読み進んでいくと、波乱万丈な人生を臨場感たっぷりに追体験できると思います。

第四章は高田氏の考えるコミュニケーションが書かれています。

一見するとテクニックを記載している様な章に思えますが、テクニックよりも「ミッション」と「パッション」に重きを置いています。

私は本書からは、ミッションは「なぜ、伝えるのか」、パッションは「思いが伝わること」と解釈しています。

「なぜ、この商品を買ってもらうために伝えようとしているのか」「この商品が『いい』と伝わるにはどうすればよいのか」を明確に持っていないと、受け手にこのトークは小手先のものだと見透かされてしまい、結局商品の良さは伝わりません。

更に、伝える相手は誰なのか、分かり易い言葉で伝えているのか、そもそも何を伝えたいのか、そして伝えることを絞るといったことを氏が愛読する世阿弥の「花鏡」と「風姿花伝」から引用しながら語っていきます。

高田氏のトークと能に共通点があるのか、と思われるかもしれません。しかし、プレゼンテーションのエッセンスは能から拾い出すことができます。

社長退任

最後の第五章では、顧客情報流出事件や東日本大震災への対応に始まり、社長退任を決心したきっかけ、退任後から現在について書かれています。

顧客情報流出事件はジャパネットたかたの業績に大きな影響を与え、まさしく逆境でした。そこでも攻めの姿勢は崩さず、とにかく今できる努力に注力します。

事業回復の施策を打つ中で、氏が社長退任を考える出来事があります。

最終的に氏は会社を長男に任せ、引退をします。長男に受け継がれた会社は社名変更をや新会社の設立など、早速変化を始めていきます。すべてを新社長に任せた氏はそれを否定することなく、自身の今後について語り、本書を締めくくります。

今できること

全部で271頁で文章が口語の書籍なので、読破は簡単そうですが、書かれている内容が熱く伝わってくるため、休み休み読んだので時間を要しました。

表現を変えながらも、本書では常に「できない理由ではなく、どうすればできるのかを考える」「今できることを精一杯する」ことが繰り返し説かれています。

「本のタイトルにつながるコミュニケーションはどこに行ったんだ」と思うかもしれませんが、高田氏が今できることを精一杯してきたこと、何を誰にどのように伝えてきたのか、が本書のあらゆる場面に散りばめられています。

逆に言うと、第四章もその側面を切り取っただけで、全章を読んで高田氏の伝えたかったことが理解できます。

本書の考えは仕事で応用できます。幼少を昭和時代に過ごした平成のモーレツ社会人の生き方を見習おうというのは、今の時代には合いません。しかし、仕事をしていると時々、何のためにこれをやっているのか疑問を持ったり、できない理由を並べていることがあります。

「今を少しだけ頑張る」「今やっていることは人生の肥やしになる」と意識するだけで、後の生き方が大きく変わるかもしれません。振り返ってみると「そうだったな」と共感することもあり、考えさせられる一冊です。