FAXが現役の日本社会は「アフターデジタル」の世界に移行できるか

ビジネス

星をつけないブックレビュー

投資とは別に、読んだ書籍の中でおススメしたいものを紹介します。全て5つ星=おススメ。なので、評価はせずに内容や思ったことを綴ります。

今回紹介するのは「アフターデジタル」


日経BP社から「アフターデジタル」という書籍が出ていたので読みました。初版はほぼ一年前です。著者は藤井保文、尾原和啓の二名です。藤井氏は中国で「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を現地の日系企業向けに提供、尾原氏はドコモのiモード事業立ち上げ支援の経験があります。

サブタイトルは「オフラインのない時代に生きる」と攻めています。同時に表紙の左上には英語で「Online Merges with Offline」とも書いてあり、オフラインがなくなるのか、オンラインとオフラインが一緒になるのか、どちらなんだ、という心の突込みはあります。

この書籍は中国で起きているオンラインとオフラインの融合を紹介し、日本人にも考えるきっかけを作ろうという目的で書かれています。

著者の一人である藤井氏の対談を、書籍を読んだ上で読むとさらに面白いです。(対談記事すべてを読むにはMarkeZineへの登録が必要です。)

スポンサーリンク

海外でのデジタル化

本書の最初は、日本の本格的なデジタル化はまだ訪れていないという前提で、エストニアの電子政府、スウェーデンのキャッシュレス、中国について紹介しています。

対する日本は書籍ではもちろん触れられることはありませんが、新型コロナウイルスで陽性患者数のデータを集めるのにFAXを使っていて、東京都では集計ミスがある、データは集計に三日かかるなど、お粗末な状態です。

本書では中国の話が進められていきます。導入では中国のモバイル決済、自転車シェアリング、信用スコア、さらに平安保険グループを例にし、これまでの「どこで何がいつ」売れていたか、から「誰が何をいつどうやって」買うのかといったデータ活用をし、そこから顧客体験をより良いものにしようという方向に進んでいることを示しています。

スポンサーリンク

OMO – オフラインのない時代に生きる

続いて、 ビフォーデジタルの世界とアフターデジタルの世界を対比します。本書では日本はいまだにオフラインがメインで、そこにオンラインが加わるビフォーデジタルの世界で、デジタル化が進むアフターデジタルにおいては、オンラインがメインでそこにリアルが入り込んでくる世界としています。

Google China 元CEOの李開復氏がOMO(Online Merges with Offline / Online-Merge-Offline)という言葉を2017年ごろに提唱したことを紹介し、アフターデジタルの世界ではオンラインとオフラインは融合していくことを中国企業のビジネススタイルを例に挙げています。

そこでは、オンライン専業の業態であってもオフライン/リアルの店舗や接点を持つことがあります。彼らにとっては顧客接点となるチャネルのひとつであり、企業側からするとオンラインであろうとオフラインであろうと顧客の購買、行動データを集めて活用することは同じと言い切ります。ここは日本企業にはまだ理解されていないとも述べています。

更に、アリババが運営する生鮮食品を販売するスーパーマーケット「フーマー」を紹介。「ネットスーパー」が思ったよりもビジネスとして成功していない日本とは全く異なる発想のスーパーマーケットです。

活況のあるスーパーマーケットの裏ではオンラインで注文が絶え間なく入り、店員は商品をピックアップ、3km以内に30分で配達という仕組みが構築されています。顧客は店舗で買ってもよいし、オンラインで注文しても構いません。

日本企業の勘違い

このようにUX(ユーザーエクスペリエンス)を最適化して、顧客データを集め、改善につなげていく中国企業を参考に、日本企業が視察に来たり質問をしたりしてきます。しかし、その殆どの質問は的外れなものばかりと筆者は指摘します。

特徴的なのは既存のオフラインの資産にオンラインの要素を詰め込もうとする。例えば、一部店舗の無人化であったり、膨大な顧客情報を保有していても購買パターンまでの分析にとどまり、何故顧客はその商品を買うのに悩んだのか、比較をしたのか、という状況にまで食い込んでいないといったことです。

そして、デジタル化とはどこかの部門が主導となって他の部門と連携するようなものではなく、会社を作り変えるくらいのものであるとも言い切っています。

書籍の内容から逸れますが、今回の新型コロナウイルスで台湾のデータ活用が話題になりました。マスクの買い占めを抑制したり、無用にマスクを探すことを国民にさせない様にしたりしたのもデジタル化によるUX向上と言えます。

以降、本書は日本企業への提言というべき、アフターデジタルの世界にどうビジネスをシフトさせていくのか、と進んでいきます。

CRMがようやく現実のものとなる

読後、最初に思ったことは「CRMバブルのころに言っていたことがようやく実現するのか」です。

かつて顧客満足という古い言葉がありました。同時期のITバブルの頃には派生語としてERP(基幹システム)バブル、CRMバブルというものもIT業界では使われていました。

CRM(Customer Relationship Management)は、システムに格納された顧客データを可視化、共有化することで、属人的な「おもてなし」を誰もが、同じ水準でできるようにしていこうと謳われたものです。

当時は、いくらデータが可視化、共有化されても最終的には顧客と対面する人間の力に頼らざるを得ないのは致し方なく、正直言ってCRMを導入しても顧客の購買行動や問合せ履歴をデータベースとして蓄積し、追いかけるのが精一杯だったのではないかと思います。

ようやく現在になって、蓄積された顧客の行動や購買状況のデータを基にAIが最適な提案をしていくことが可能となってきています。「おもてなし」に人間は不要です。

やはりAIに仕事を奪われる?

オフライン/リアル店舗の無人化、AIが接客、対応となると「AIが人間の仕事を奪う」という文脈で語られることが多いです。

一方で、アフターデジタルの世界では顧客は時々の状況でオンライン、オフラインを選択します。

オフラインのリアルの世界では、顧客は楽しい経験を求めてくることになります。ホリエモンこと堀江貴文氏は氏のYouTubeチャンネルで「今後は、レストランは料理を作る人よりも食べに来た人を楽しませる人材の需要が増す」といった内容の話をしたことがあります。

顧客の嗜好がデータ分析の結果分かった上で、エンターテイメントをする。分析と提案まではAIでできても、楽しませることはAIにはできません。

AIに仕事を奪われるのではなく、仕事の種類が変わることに対応していくことが重要ではないでしょうか。

かつて、企業の代表電話に架かってくる電話をつなぐ交換手という業務をする人がいましたが、今は殆ど見かけません。事務センターでのキーパンチャーも減っています。最近ではスーパーのレジも無人レジが増えてきています。

「これまでの食い扶持がなくなる!」

「だったら、次の楽しいことはなんだ」

と考えられる人が生き残れる社会になるんですよ、と本書は伝えているようです。日本人にとって一番苦手な「自分で決めて進めていく」ことが求められます。