三月第一週の米国市場は波乱含みでした。
3月5日に市場が閉まる時間には少し落ち着いた印象に戻ったものの、3月3日から5日午前にかけては乱高下が見られました。
特に、NASDAQ総合指数の三月第一週の動きは激しく、3月1日の最高値と3月5日午前の最安値の差は9%となっています。
YouTubeでは投稿されている動画のサムネイルに「バブル崩壊」「Market Crash!」といった煽り文字が踊り、動画へのコメントに加えRedditの書き込みには「暴落だー」「もう血まみれ」「パニックになるな!」「売り時を逃した」「今は買いのチャンスだ」と悲喜こもごものコメントが書かれています。
「バブル崩壊」と煽るのは簡単です。
しかし、一旦株価指数を冷静に見てください。
NASDAQ総合指数は確かに暴落しています。一方で、ダウ平均は2月1日の始値よりも3月5日の終値の方が4.8%高くなっています。同様にS&P500も2.9%高い数値。
EV関連、テクノロジー関連が下落しており、そのような銘柄が多いNASDAQの下げ幅が大きいことは確かです。
ただ現時点では「バブル崩壊」というには早い気もしています。
そこで、現在一部株価が暴落している理由を、国債の利回りが上がっている面から探ってみようという試みです。
株価市場はバブル崩壊?
本当にバブル崩壊なのでしょうか。
私が保有している配当株の価格変動は、さほど大きくありません。一方でテスラ株(TSLA)の暴落は話題になっていす。
例えば、下記チャートにある様に JPMorgan & Chace(JPM)の株価はむしろ上昇していて、テスラとは真逆の動きをしていることが分かります。
冒頭で暴落しているのはNASDAQであると触れました。他の指数との比較でまとめると以下の通りですが、なぜNASDAQでこのようなことが発生しているのでしょうか。
2月1日始値 | 期間中最高値 | 期間中最安値 | 3月5日終値 | |
---|---|---|---|---|
ダウ平均 | 30,054.76 | 32,009.64 | 30,014.97 | 31,496.30 |
S&P500 | 3,7313.17 | 3,950.43 | 3,723.34 | 3,841.94 |
NASDAQ | 13,226.18 | 14,175.12 | 12,397.05 | 12,920.15 |
国債と株価
国債利回りと国債価格
先月のQQQ買増し報告記事の中で、お金の動きが変わってきている要因の一つとして10年国債の利回りが上がっていることに触れました。
低利回りだった2020年から2021年に入り、現在は1.55%に急上昇しています。
参考として iShares の10-20 Year Treasury Bond ETF (TLH) というETFの値動きを下記に示した通り、国債の価格は下がっています。
国債利回りが低かった2020年のETFの価格は170ドル近かったのですが、利回りが上昇した現時点で142ドルまで下落しています。
そして、上記二つのチャートを見比べると、鏡を合わせたように線が描かれていることが分かります。
利回り上昇で債券価格が下がることをとても雑に説明すると、債券は都度発行されています。利回りの高い債券が後から発行されると、利回りの高いほうが人気が出ることは摂理。そこで、利回りの低い既発行の債券が買われなくなることが無いように値段の調整が行われる、つまり値が下がるという仕掛けで、逆もまた然りです。
もちろん債券価格の決定は利回りだけではなく、景気や物価、需給関係といった要因も含まれます。
今回は、連邦準備理事会(FRB)による金利上昇が予測され、機関投資家が債券の値が下がる前に売却をしてしまおうとして売りが集中し、値が下がったことで国債利回りが上がったといわれています。
国債利回りと債券価格と株価
国債利回りと債券価格の関係は分かりました。次はそれらの株価への影響を見ていきます。
株価は需給関係で決まります。多くの人が株を買おうとすれば値が上がり、多くの人が売れば値が下がります。もちろん需給は企業業績などの要素が絡むことは言わずもがな。
債券を売った機関投資家は今度は値が下がった債券を購入します。
しかし同時に、これまで保有していた株も売却して債券の購入資金にしていきます。資産運用には、値動きの激しい株よりも利回りが高い債券の方が好まれているからです。
となると、NASDAQで取引されている値動きの激しい、しかしこれまで十分に含み益を持たせてくれていた株を一気に売却しようとするのは想像に難くありません。
ここで株価下落の兆しが見えます。
Robonhoodトレーダーによるパニック売り
Robinhoodユーザー増加
機関投資家による大量売買が与える影響も無視はできませんが、個人投資家によるパニック売りも拍車をかけます。
何かと話題のRobinhoodは手数料無料ということもあり、2014年には50万ユーザーだったのが2020年には1,300万ユーザーと驚異的にユーザー数を伸ばしています。
新型コロナウイルス禍での給付金
Robinhoodでは2020年に300万ユーザーが増えました。この背景には新型コロナウイルスに対する景気対策の給付金が一部影響しています。
2020年5月21日のCNBCの記事では、2020年3月から4月の間で、給付金を受領した人としていない人の間でお金の動きに差があるかの調査結果を報じています。
下記から分かるように、年収が35,000~75,000ドルの人が株式取引の資金移動をしていることが際立っています。
これらの人は、過去に株式取引の経験が少ないと推察されます。
加えて、Robinhoodユーザーが取引している株式数の推移を見ても2020年は個人投資家の取引が一気に増えたことが分かります。
RobintrackというサイトがRobinhoodのAPIを用いてデータを取得していました。しかし、2020年8月にAPIが閉じられてしまい、現在はアーカイブのローデータをCSVで公開しています。
早速、覚えたてのPower BIを活用し、約8,600銘柄分のデータから十銘柄を下記に表示しています。
- Apple (AAPL)
- The Boeing Company (BA)
- Ford (F)
- Flowers Foods (FLO)
- The Coca-Cola Company (KO)
- NIO (NIO)
- Nikola (NKLA)
- Pfizer (PFE)
- AT&T (T)
- Tesla (TSLA)
各銘柄の差を見るというよりも給付金が出た後からの取引数変化を掴むとよいです。
取引数は七月から急騰していますが、八月以降どうなっていたのか。データ取得が出来なくなったことが残念ですが、増えていったと容易に想像できます。
暴落を知らないRobinhoodユーザー
臨時収入のあった初心者のRobinhoodユーザーは、大暴落を経験していないでしょう。
給付金が3月~4月にかけての受給となると、下記チャートで分かるように、株価が戻り始めていて、年末までほぼ右肩上がりの値動きとなります。
更に、2020年後半はSPACによる買収やIPOは話題性のあるものが続きました。
2020年後半に下落はあったものの早く戻っています。
今回は国債利回り上昇とセットとなった売りが入り、そこで暴落体験が少ない個人投資家による狼狽売りが、新たな狼狽売りを誘発していると言われています。
データが見つけられていないので推測ですが、NASDAQだけに影響があるのは、恐らく新規の個人投資家は大きな儲けを狙えそうな成長株の多いNASDAQに集中的に投資をしていたのではないでしょうか。
投資への態度が将来のリターンを左右する
投資にはトレーニングが必要
昨年の新型コロナウイルスによる三月の暴落を思い出してください。
サブプライム、リーマンショックの再来か、と言われた2020年3月の暴落は二番底をつけることなく回復しました。遡ること、リーマンショックも回復に時間を要しましたが、株価がゼロになったわけではありません。
それでも、保有資産がみるみる減っていくことは正視できない事実です。
長期投資であれば一過性のものと捉えてパニックなる必要はありません。しかし、心理学面からみると人間は保有しているものの減少に耐えることは出来ないと言われています。これは太古の昔に培われたもので、せっかく捕った獲物をとられないようにする本能と言われています。
そこで必要なのがトレーニング。
お勧めは若いうちからインデックス投資信託を積み立てるなどして、常に変動する値動きに慣れることです。
脳も臓器。筋肉を鍛えるようにトレーニングが必要です。年を重ねてからいきなり大金を株式につぎ込んで今回のようなことがあればパニックに陥り、狼狽売りをしかねません。
リターンを制するのは態度
株価は下落することがあります。
その理由が企業の事業の方向性が変わった、事業環境が変わった、といったファンダメンタルズが変わった場合はさっさと損切りをする方が、傷口を大きくせずに済みます。
ファンダメンタルズではなく、他の要因により相場が奮わない場合、そこで目減りする資産を目の前にオロオロするのか、状況を把握したうえで冷静に対処するかで将来のリターンが変わってきます。
狼狽売りをすれば、損を出したまま終了です。
目の前で発生している現象、背景を理解したうえで、自分が取るべき態度を決めていきましょう。それがリターンを享受できるかに繋がっていきます。