ドコモはなぜ、メルカリと業務提携したのか

キャッシュレス
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ドコモにとってメルカリと業務提携をする意味

前回の記事でメルカリがOrigamiを統合し、信金中金やドコモと業務提携した背景について考察を述べました。

そこでは、メルカリにとってのメリットが強調されているように見えます。しかしながら、提携というのであれば双方にもメリットがないと、わざわざ提携をする意味はありません。

今回はメルカリIDとdアカウントの連携や加盟店の共同開拓といった大掛かりなものです。ドコモの事業収入は82%が通信事業からで、約4兆円の売上げです。片や金融やポイントはスマートライフ事業と呼ばれる事業の一部で、その売上げは4,500憶円弱でドコモ売上げ全体の9%です。

更に営業利益の構成比は通信事業の割合が増え、85%となり、スマートライフ事業は7%です。収益の割合だけで語るのは乱暴ですが、規模の小さな事業で大きなことをしようとしていることに疑問に感じるようになるかもしれません。

自分なりに考えた結論は、

この小さな事業を成長させるには競争で勝つ必要があり、キャッシュレス決済で拡大するにはメルカリとしか組めなかった。

というものです。そこに至った経緯を述べていきます。

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2019年度 第3四半期決算

スマートライフ事業の財務状況

メルカリの決算発表の一週間前である2020年1月30日に、ドコモは第3四半期決算を発表しています。キャッシュレス決済関連事業のあるスマートライフ事業の結果を決算資料から抜粋すると以下の通りです。

  • 売上 3,945億円(前年同期比10%増)
  • 営業利益 1,364億円(前年同期比1%増)
  • 各カテゴリー構成
    • あんしん系サポート(ケータイ補償サービス等):約50%
    • コンテンツ・ライフスタイル(dTV や DAZN for docomo等):約15%
    • ⾦融・決済(dカード や d払い等):約15%
    • その他(法⼈ソリューションなど):約20%

金融・決済カテゴリーの状況

上記の資料から計算すると、金融・決済カテゴリーは営業利益では約204億円を稼いでいます。もう少し詳しく見ていきます。

⾦融・決済サービスの取扱⾼は、3兆8,200億円(前年同期⽐34%増)です。その内、dカード取扱⾼が2兆9,900億円となります。金融・決済の中でも取扱額ベースですが、成長の稼ぎ頭はクレジットカードです。

一方で、キャッシュレス決済のd払いを見ると、取扱⾼は2,600億円で前年同期比で3.3倍と大幅な伸びを見せています。ユーザー数も2,198万ユーザーと前年同期比で2.1倍です。ユーザー数も増えているし、既存ユーザー含めd払いで決済する金額も大きくなっている様子が分かります。

更に、dポイントは1,459億ポイント(前年同期比23%増)利用されていて、利用可能箇所も前年同期に対して、1.5倍近くになっています。それも寄与し提携先で864億ポイント利用されるようになりました。

成長著しいですが、売上の伸びと比較して利益の伸びが低いということは、拡大に向けて費用もそれなりにかけている様子です。決算資料ではドコモ全体の収支の箇所で、スマートライフ事業で販売促進費用が嵩んでいることに触れられています。

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携帯電話事業者の強み

一旦話は逸れますが、携帯電話事業者の歴史について軽く触れます。

1985年に旧電電公社が民営化され、日本電電公社が日本電信電話株式会社(以下、NTT)となりました。市場に数多くの新規通信事業者が登場し、それらの会社はNCC(New Common Career)と呼ばれていました。

NCCには長距離系、国際電話系などがあり、移動体事業(自動車電話・携帯電話)を行うNCCは日本高速通信(トヨタ・日本道路公団)系の日本移動通信(IDO)と京セラ系のセルラーです。ドコモは1992年7月にNTTから分社しています。

当時、携帯電話事業は基地局の整備に費用がかかるだけでなく、そもそも、これまで世の中に存在しなかった製品に将来性があるのかも分からないという期待値が未知数のものでした。それでも、携帯電話会社はそんな下馬評を意に介さず、「世の中に様々な分野のNCCがあるが『足回り(今でいうラストワンマイルと近い意味)』を持っているのは携帯電話会社だけなので、将来必ず覇権を取る」と信念を持っていました。

それから30年近く経過し、携帯電話は個人が手放せないものとなり、スマートフォンへの移行であらゆる情報が手の中に集約されています。まさしく「足回りを持つものは覇権を取る」世界となりっています。

ビジネス環境の変化

1994年に携帯電話端末がレンタルから売り切りになりました。それまで携帯電話端末と回線契約は一組で販売していたものが、回線のみを売る時代になると予想されていました。実際は販売方法は変わらず、その売り方も競争も激しくなっていきました。

近年になってようやく「是正」の方向に向かっています。しかしながら、長年低廉な端末価格に慣れ切った消費者は麻薬漬けのようになり、端末の高価格化も相まって、買い替えサイクルも長期化しています。

それ故、携帯電話端末からの収益を大きく期待することも難しくなっています。実際にドコモの決算でも「販売関連収⼊は端末卸売販売数減などにより 1,613億円減」と伝えています。

通信料収入は安定的にあるものの、次の一手を考える必要に迫っています。他社も参入している金融事業であったり、データを活用したマーケティング・広告なのではないでしょうか。

もうひとつのラストワンマイル

携帯電話事業者はラストワンマイルを握っています。しかも携帯電話端末はスマートフォンとなり、様々なサービスがその端末に集約されています。

更に金融の世界も変化が激しく、 クラウドファンディングや個人間送金など銀行を介さずに行えることもあります。リアルタイムの小口決済を自社の通信サービスと決済サービスで完全に囲い込むことも不可能ではないようです。

消費者はわざわざ銀行の店舗どころか、インターネットバンキングにログインする必要なく、取引が行なえます。さらに顧客の金銭の動きをデータとして蓄積、活用すればカスタマイズされた情報や顧客体験を提供できます。

そこで、金融事業でもラストワンマイルを握り覇権を取ろうとしているではないでしょうか。

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QRコード決済市場

上記では携帯電話端末・スマートフォンのウォレット機能を使って小口決済を中心として金融サービスを本格化させると推察しています。しかしながら、同時に金融業界も手数料ビジネスの領域で低価格化が進んでいるため、ある程度のスケールメリットが必要であることは容易に想像できます。

ここで、QRコード決済サービスの利用割合を見てみます。MMD研究所による2019年9月実施調査で、現在メインで利用しているQRコード決済サービスを聞いた結果です。

  1. PayPay 44.2%
  2. 楽天ペイ 17.1%
  3. LINE Pay 13.6%
  4. d払い 13.6%
  5. メルペイ 4.4%
  6. au Pay 3.5%
  7. Fami Pay 1.5%
  8. Origami Pay 0.7%

QRコード決済の支払い方法に関する調査、MMD研究所

消費税増税直前であることと、動きがはやいため、この記事を書いている2020年2月現在とは異なるかもしれませんが、肌感覚としては上記結果に違和感はありません。

d払いは決算発表で取扱高が3.3倍になったと伝えていますが、それでも13.6%です。

選択肢はメルペイのみ?

圧倒的な営業力で加盟店開拓をし、矢継ぎ早のキャンペーンでユーザーを獲得しているPayPayはソフトバンク。そのソフトバンク傘下のZホールディングスはLINEと経営統合を行います。当然のことながらQRコード決済も統合されると思われます。

au Payの利用ユーザーは少なく、2020年2月10日~3月29日まで最大20%還元を「毎週10憶円もらえるキャンペーン」として行い、ユーザー獲得を狙っている様子ですが、当然のことながら今の時点では組む相手としては視野には入りません。

独自の経済圏を持つ楽天ペイの楽天は2020年4月から正式に楽天モバイルをサービスインさせます。auと同様に携帯電話事業者としての競合と組むことは、こちらも今の時点ではないでしょう。

d払いの規模を効率的、かつ費用を抑えつつ拡大したいとなると、選択肢はメルカリのメルペイのみだった。そしてメルカリも費用を抑えつつもQRコード決済事業を何とか軌道に乗せたい。その思惑が一致した結果というのが実態だと考えられます。

まとめ

二回に渡りメルカリのOrigami統合、信金中金、ドコモとの業務提携をメルカリの視点、ドコモの視点で考察してきました。

メルカリにとっては傷口を広げないためにドコモと提携することで顧客基盤と加盟店数を確保し、ドコモは新たなる覇権を目指すも、費用を抑えるために組む相手の選択肢がメルカリだった。

という考えに至りました。中の人たちは全く異なることを考えているかもしれませんが、外部に公開されている資料からの推察です。まだまだ、この業界の動きは目が離せません。