投資をしていると、バークシャーハサウェイのウォーレン・バフェットの言葉を耳にすることがあると思います。
ただ、その言葉は切り取りで伝えられることもあり、投資方針を誤解していることもあるかもしれません。そのため、センセーショナルな文言は、字面だけ捉えて脊髄反射で動くことは避けたいものです。
こんな前置きを書いておきながら、今回はバフェット氏の言葉を借りたETFを紹介したいと思います。
Moatという単語があります。意味は堀。洋の東西を問わず、敵を寄せ付けないために城主は城の周囲に堀を設置してきました。
ビジネスでも、競合を寄せ付けない優位性を持つことが、事業成功につながると、バフェット氏は発言しています。
この優位性のことを堀に例え、その堀がある企業を集めたETFが、そのままMOATというティッカーで上場しています。
このMOATは楽天証券でも取扱いがあり、もしかしたらS&P500を対象としたインデックス投資の補完になるのではないか、と気になったので見てみたいと思います。
【注意】本銘柄は個人の意見として記載しているのみで、推奨されるものではありません。ETFの商品内容を確認した上で、ご自身の責任で投資判断を下してください。
VOICEROID動画解説
本ETFに関する動画を作成していますので、ご覧ください。
MOAT
MOATの正式名称は、VanEck Morningstar Wide Moat ETFと言います。このETFは、VanEckという会社が運用しています。
VanEckは私も知らなかったのですが、van Eck家が有する同族会社のようで、1955年に米国の投資家向けに投資機会を提供する会社として、John van Eck氏が設立したのがルーツとなり、現在は息子が会社を引き継いでいます。
さて、MOATのETF情報を見てみます。
MOAT | |
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設定日 | 2012年4月24日 |
経費率 | 0.46% |
総資産 | 68億ドル |
銘柄数 | 52 |
利回り(30-Day SEC Yield) | 1.20% |
インデックス | Morningstar Wide Moat Focus Index |
十年運用されていますが、総資産はそれほど大きくありません。また、利回りも1.20%なので配当(分配)を狙うETFではなさそうです。
MOATはMorningstarのインデックスをベンチマークとしています。Morningstarの調査により、競争的優位がある会社を選択しているインデックスで、これに基づいて52銘柄が組み入れられています。
Morningstar Wide Moat Focus Index
インデックスを提供しているMorningstarの説明を見てみると、Morningstar Economic Moat Ratingといった株価とフェアバリューを基に算出した評点を使って銘柄を選択しています。その手順概要を下記に示します。
- 銘柄は、Morningstar US Market Indexから選定
- Morningstarのエクイティリサーチチームによるスクリーニング
- 株価/フェアバリューのレシオで最も低いものから40社を選定
各ステップには詳細のルールがあり、セクター構成も上限を定めていたりしています。また、銘柄は三月、六月、九月、十二月と四半期ごとに見直しを行っています。
MOATのことを知った時には、「堀のある会社」を定性的に見つけ出すのかと思ったのですが、定量的に行っています。
銘柄・セクター構成
銘柄
MOATは現在52銘柄で構成されています。その内の上位十銘柄を見てみます。
知っている会社を探すと、Mercadolibre、メルク、アマゾン、キャンベルスープ、ケロッグと半分くらいあるのに驚きです。なお、上位十銘柄で全体の26%を占めています。
Name | % |
---|---|
COMPASS MINERALS INTERNATIONAL INC | 2.79% |
MEDTRONIC PLC | 2.67% |
MERCADOLIBRE INC | 2.61% |
WESTERN UNION CO | 2.61% |
MERCK & CO INC | 2.61% |
ZIMMER BIOMET HOLDINGS INC | 2.61% |
EMERSON ELECTRIC CO | 2.59% |
AMAZON.COM INC | 2.57% |
CAMPBELL SOUP CO | 2.54% |
KELLOGG CO | 2.51% |
セクター構成
セクター構成を見てみます。MOATのセクター構成に対する初見の印象は、S&P500に似ているのではないか。という訳で比較しながらのチャート掲載です。
ITとコミュニケーションで三割を超えるのはMOATもS&P500も同様です。一方で、生活必需品と資本財の比率が高いのがMOATであり、一般消費財、金融はS&P500の方が高くなっています。

重複比較
更に、MOATとS&P500の比較をしてみます。
銘柄数の比較をすると、MOAT銘柄の八割がS&P500に含まれています。
「なんだ。そうであれば、S&P500で賄えるんじゃないか?」と思ってしまいそうです。

競合に攻め入れられない様な堀がある会社と言っても、定量的に選んでいるのであれば、結果的にS&P500に似てしまう、と思います。
ここで、構成割合の重複に着目します。S&P500そのものの構成割合は分からないので、MOATとVOOで比較をすると、構成割合の重複は二割程度までに下がります。
これは、MOAT銘柄が均等とは言えないものの、各銘柄の割合が1~3%に納まっているのに対し、S&P500は時価総額加重であるために、Appleは7%、アマゾンも3%を超えているのに対し、上位銘柄でも保有比率が1パーセント台前半と低くなってしまいます。
こういった性格の違いから、銘柄では殆ど重複しているのにもかかわらず、構成割合での重複が少ないという事が発生していると言えます。
パフォーマンス
セクター構成や重複で悩むより、パフォーマンスを比較してみましょう。すると、性格の違いが浮かび上がるかもしれません。
ちなみに、MOATの株価はは2022年5月2日時点で69.53ドルです。
さて、MOATの当初設定からの株価推移にS&P500の動きを重ねてみると、パフォーマンスはMOATの方が上回っています。やはり競合に優位な商品やサービスがあることの結果と言えそうです。

MOATはS&P500の補完となるのか
S&P500に対してMOATは特色を出しており、ポートフォリオに少し色を付けるのに良いのではないか、と思いますが、ここでふと頭をよぎったのは、「QQQの方がパフォーマンスは更に良さそう」という点。そこで、再度パフォーマンスを確認します。
予想通りの結果で、QQQの過去十年のパフォーマンスは驚異的です。

ただし、将来もこのパフォーマンスが約束されているかどうかは、誰にも分かりません。また、何かのイベントで下落に遭遇した場合、どの程度下がるのか、どれくらいで回復するのかも予測不能です。
そこで、競合に対する優位性を保持する企業に自分の資産を託すのか、ないしはNASDAQ100という勢いのある指標に賭けるのか。リスク許容度と投資可能期間で検討する必要があることは言うまでもありません。