旬がとっくに過ぎているHyliion(HYLN)の話

ビジネス

株式の保有はしていたけれども、過去のブログ記事で言及してこなかった銘柄の話です。

記事に書いてこなかったのは、EVや燃料電池自動車が旬の頃は情報更新が早すぎて追い付けなかった事。加えて最近は株価が低迷し過ぎて書く気持ちも萎えていた事が理由です。

チャートを見ると、SPAC(特別買収目的会社)の頃は過熱気味と思える40~50ドルの値が付いており、HYLNのティッカーで上場して以降、飛行機の着陸の軌跡とも言えそうな下降線を描き、2023年5月は2ドルを下回っています。

過熱とも言える株価が付いていた2020年は、テスラがS&P500に採用されたり、米国の郵政公社(USPS)の次世代配達トラックの入札などもあったりしてEVのスタートアップ企業は多く話題に挙がりました。USPSにまつわる銘柄と言えば、Workhouseです。同社の株価も2023年5月で1ドルを割るPenny Stockと化しています。

EVだけではなく、燃料電池車も盛り上がっており、NIKOLAというテスラの相棒みたいな名前の会社も上場したりと市場は熱くなっていました。

余談ですが、NIKOLAの創業者であるTrevor Miltonは、株価を上げるために虚偽を図っていたことで2022年10月に有罪となっており、同社は遡ること2020年9月にGMと戦略的パートナーシップを組んで再起を図ろうとしていましたが、あっという間に話はご破算となりました。NASDAQの上場基準を満たさない恐れもありながら、綱渡りの経営が続いています。

さて、激動の2020年に上場したHyliionはどのような会社か見ていきたいと思います。

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現在の主力商品はハイブリッド

Hyliionは、Class 8 トラックのパワートレインを開発しています。水素を使った燃料電池を前面に推し出していたNIKOLAとは異なり、Hyliionは一気に燃料電池に進むという戦略を採っていないだけではなく、トラックの製造もおこなっていません。

燃料電池は水素ステーションのインフラ構築が大変です。米国内で長距離トラックの燃料を賄える水素ステーションインフラはまだ整っていないことを背景に、Hyliionは段階を踏んで商品を普及させようとしています。

現在の主力商品はハイブリッドシステム。2021年第4四半期からは、次世代のHybrid eXが会社の売上に貢献しています。

トラックの製造をしていない同社は、このハイブリッドシステムは既存のトラックに装着、ないしはOEMという形で販売しています。Hyliionによれば、パワートレインのみ販売は、トラックの車体価格が高額なことに触れ、事業を進めていく上での優位性を示しています。

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次世代商品はガスが燃料

ハイブリッドの後続として開発されていたERXと呼ばれるユニットは、2023年6月27日から量産化され、2030年末までに2,000台以上に装着する予定です。

このERXも水素を使った燃料電池ではなく、Renewable Natural Gas (RNG/再生可能天然ガス)による駆動です。ハイブリッドの次に水素を使うのではなく、ガスを使用するのは、水素ステーションがまだ普及されないとHyliionでは見ていることによります。

一方、米国ではRNGは比較的容易に手に入ります。またERXは、RNGの代わりにCNGでも動作します。CNGステーションは整備されており、Hyliionでは燃料の入手のしやすさを重要視していることが分かります。

補足ですが、ERXはガスでトラックを動かすのではなく、ガスで発電して電力で走ります。日産のePowerの様なシステムです。

KARNOに注力

KARNOは様々な燃料で駆動

2022年8月にHyliionはGEの関連会社であるGE AdditiveからKARNOジェネレーターを購入するというアナウンスを行い、同年九月に購入を完了しています。Hyliionは、1,500万ドルの現金と2,200万ドルのHyliion株式を費用としてGEに支払っています。

KARNOジェネレーターは「Fuel Agnostic Generator」と呼ばれています。しかし、Agnosticという単語の訳は難解です。調べてみたり、KARNOジェネレーターの特徴からみると「万能」と訳すのが適切の様です。

KARNOジェネレーターは水素を含む、天然ガスやプロパンガス、そして軽油といった20種類以上の燃料で動きます。これだけ聞くと、バック・トゥ・ザ・フューチャーに出てきたゴミで動くデロリアンを思い出します。さらに、KARNOは発電して他の車にも共有可能で、通常の電力よりもコストが安くなることも売りとしています。

水素を燃料とするシステムになったとしても、水素エンジンではなく、ジェネレーターで発電し、リニア式の発電機を用いて発電された電気でトラックを動かすことになります。

トヨタが、乗用車向けとはいえ水素エンジンの開発を行っているので、これが商品化されてトラックサイズにまで応用されると激戦区の市場となりそうです。

KARNOが当面の主力商品

2023年5月2日にAdvanced Clean Transportation Expoで、KARNOジェネレーターのデモも行われました。そしてERXが量産に入ったら、後追いで試験、認可取得でKARNOを商品化予定との事です。本格的な商用化は2024年と見込まれます。

そして、2023年11月9日に行われた第3四半期の決算発表では、パワートレイン事業からKARNOに注力することも併せて発表しています。これは、マスコミの流布とは異なる、EV業界の不振によるものです。Hyliionでは、EVの普及は想定よりも遅く、高コストで、現時点で事業として成り立ちにくいと考えており、複数の燃料で動くKARNOジェネレータに主軸を置くとしています。

上場後の軌跡

HyliionはSPACの仕組みを用いて2022年10月にHYLNのティッカーで上場を果たしました。

上場後は決算発表が四半期ごとに行われますが、スタートアップ企業の場合、財務的な話よりも事業の進捗報告がメインとなることが多いです。

Hyliionも現在はハイブリッドシステムを販売しているとはいえ、KARNOの次の世代の駆動システムとなる水素による燃料電池システムまでは、まだまだ長い道のりと言えるでしょう。

2020年第3四半期からの決算発表には、開発状況や資金調達、主要ポジションの採用といった話が含まれています。

ここでは、決算発表のプレスリリースから、売上に影響を与えそうな動きをいくつか拾って紹介します。

  • 2020年第3四半期:八台のハイブリッドシステムを納入
  • 2020年第4四半期:七台のハイブリッドシステムを納入し、2020年は計二十台を納入
  • 2021年第2四半期:Detmar Logisticsから300台のERXの予約受注
  • 2021年第3四半期:Mone Transportから40台のERXを予約受注、またGreenPath LogisticとERXの試験運用のパートナー契約
  • 2021年第4四半期:425台のERXを予約受注、Hybrid eXで売上を計上開始
  • 2022年第1四半期:この時点で計2,000台のERXについて受注

一方で売上を上げても、大きな費用がかかる構造はスタートアップ企業では避けられません。2022年第3四半期では、200万ドルの売上に対し費用は1億3,000万ドルで、一年経過した2023年第3四半期は、9万6000ドルの売上に対し3,330万ドルの費用が発生しています。

保有株の状況

上述の通り、同社の株価は低迷しています。

私が最初にHyliion株式を購入したのは2020年12月で、その時の単価は19ドル。現在の株価は捉えようによってはバーゲンと言えそうですが、下落が急すぎて怖くなり、押し目買いはあまりしておらず、現在の平均取得価額は13.7198ドルとなっています。

手放すつもりは当面ない・・・が

主力商品をKARNOに変えた同社、ここで株を手放すのは迷いどころです。

パワートレインについて、2022年にERXの夏のテストをネバダ州にあるDavisダムで行い、酷暑の環境で炎天下におけるERXの動作テストをし、2022年後半は冬季テストも実施しました。2023年6月に量産化となっていますが、事業の速度を落とします。

競合に目を向けると、トヨタは以前から Commercial Japan Partnership Technologies株式会社という会社を立ち上げており、Class 8 トラックの次世代エネルギーに関して北米のビジネスを着々と準備を進めています。加えてダイムラー(三菱ふそう)との提携に鑑みると、「トヨタはEV化に出遅れている」というフレーズでネガティブキャンペーンとも思われる報道で誤解を招きそうですが、トヨタの動きはHyliionにとって完全に脅威になるでしょう。

その中で、事業化のハードルが低めのKARNOジェネレーターへの注力。パワートレインに限定せず、発電機としてのビジネスチャンスも狙っています。商品化は2024年後半を予定しています。

現時点で現金がなくなることはないとのことで、またしばらくは様子見となる銘柄と言えそうです。